一触即発 プーチン仕掛ける「核の恫喝」に立ち向かう国際社会の手札を見る

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ウクライナ危機をきっかけに、ロシアによる核の恫喝が世界を震撼させている。ロシアのプーチン大統領が2月27日、戦略核を運用する部隊を特別態勢に置くよう、ショイグ国防相らに命じた。北大西洋条約機構(NATO)主要国による、ロシアに攻撃的な発言が増えていることが理由だという。

ロシアが核の恫喝を持ち出したのは、「NATOはウクライナ危機に絶対に介入してこない」というプーチン氏の読みが外れかかっているからだ。ロイター通信などによれば、ドイツは2月26日、携行式地対空ミサイル「スティンガー」をウクライナに供与することを決めた。ドイツはロシアと経済的な結びつきが強く、戦後平和主義を唱えてきた。フィンランドも28日、ウクライナに対戦車兵器などを供与すると発表した。フィンランドは非同盟主義だったが、最近の国民世論調査ではNATO加盟を希望する声が初めて過半数を超えたとう。

2021年現在、NATO加盟30カ国の国防費総額は約1兆485億ドル(約172兆円)にのぼり、ロシアの3.1兆ルーブル(約4.6兆円)を凌駕している。防衛省関係者は「ロシアは通常兵力でNATOに歯が立たない。経済規模も違いすぎるため、継戦能力でも、ロシアはNATOの相手にならない」と語る。ウクライナ危機が長期化して人道問題などが極度に悪化すれば、有志連合方式でNATOが介入してこないとも限らない。プーチン大統領が核の恫喝を始めたのは、NATOの介入を抑止するためには、虎の子の核兵器を出すしかないという判断がある。

プーチン大統領は元々、2014年12月に承認した「ロシア連邦軍事ドクトリン」や20年6月に署名した「核抑止の分野におけるロシア連邦の国家政策の基礎」で核兵器の使用について触れてきた。ロシアは20年の「国家政策の基礎」では、核兵器の使用基準として「ロシア連邦及びその同盟国の領域及び海域に隣接した地域において、各運搬手段をその構成要素に含む仮想敵の通常戦力グループが増強されること」など6項目を挙げる。専門家の1人は「事実上、通常戦闘でも核を使えるようにする内容」と語る。

渡邊剛次郎・元海上自衛隊横須賀地方総監(元海将)によれば、ロシアは、NATOに対する通常兵器の劣勢を補うため、そのドクトリンに従って戦術核を抑止力として使用する場合は、まず、移動式発射台や爆撃機など運搬手段を見せるなどしたデモンストレーションから入る。渡邊氏は「むしろ、使用するかどうかの『曖昧さ』により、人類が核兵器に対して持つ特別な恐怖感を利用して目標を達成するのが狙いだ」と語る。相手がひるまない場合は、被害が起きない場所を選んで小規模な核攻撃を行うかもしれない」と語る。

一方、同氏によれば、ロシアは、核による抑止とともに、NATO等が対処困難な精密誘導兵器(極超音速ミサイル)を抑止力とすることも進めているという。渡邉氏は「日本ではあまり注目されなかったが、ウクライナ侵攻の約1週間前、2月19日に、巡航ミサイル『カリブル』、極超音速巡航ミサイル『ツィルコン』などを発射する演習を実施したことは注目すべきだと思う」とも語る。
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文=牧野愛博

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