経済・社会

2022.03.03 19:30

一触即発 プーチン仕掛ける「核の恫喝」に立ち向かう国際社会の手札を見る

縄田 陽介
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実際、西側諸国は、ロシアのこうしたやり方について「抑止を狙う手段として核兵器を使うことで逆に事態をエスカレートさせている(escalate to deescalate)」という非難を浴びせてきた。今回も、ブリンケン米国務長官が3月2日の記者会見でプーチン大統領の核の威嚇について「無責任の極みだ」と語るなど、強い反発が世界各地で起きている。

では、この核の恫喝に対し、私たちはどう対応していけば良いのだろうか。伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授(元海将)は「核に対しては核の報復で回答する以外、抑止はできない。ロシアの核兵器に対しては、中距離核ミサイルを欧州に配備するしかない」と語る。

核を持たない日本の場合、「目には目を、歯には歯を」はできないから、同盟国の米国に頼ることになる。いわゆる核の傘、拡大抑止力の維持だ。ただ、米国は今回、ロシアによるウクライナ侵攻を止められなかった。世界で孤立したロシアは中国への依存度が高まり、アジアで中国、ロシア、北朝鮮のブロック化が進むことは間違いない。そして、現在の日本にとって脅威となりうるこの3カ国は全て核兵器を保有している。

安倍晋三元首相や自衛隊の元幹部らが相次ぎ、米国とNATOの一部が行っている核の共同保有についての議論を提案しているのは、こうした脅威への懸念があるからだろう。同時に、日本は唯一の被爆国だ。こうした動きへのアレルギーはおそらく世界で最も強いと言える。国会などでも早速、「核の共同保有」を巡る質問や批判が相次いだ。ただ、それが世界的な潮流かと言えば、そうとも言い切れない。

例えば、お隣の韓国は2016年5月の米韓統合国防協議の際、当時の韓国国防省国防政策室長が「韓国政府は核武装論という立場をとらないが、核兵器の共同管理(保有)が実現すれば、国内の核武装論を緩和できるだろう」と述べたという。米側への要求ではなく、状況説明という形の発言で、NATOとの共同保有を韓国にも適用する可能性があるかについて、反応を測る意図があったという。この時は、東アジアでの核ドミノ現象を懸念した米国が否定的な反応を示して終わった。また、韓国の統一研究院が昨年秋に実施した「統一意識調査」では、韓国の核保有に賛成した人が71.3%にのぼった。調査の関係者は「この調査結果は特段驚くべきものではない。驚く被爆国の日本の視点がむしろ特別なものだと言えるだろう」と語った。

そして、より深刻なのは、核軍縮を唱える人々と核抑止を唱える人々の間の交流がほとんどないという点だ。外務省関係者は「外務省内ですら、この傾向がある。核抑止を担当している安保屋が核軍縮部門の人々の主張に耳を傾けることはほとんどないし、逆もまたしかりという状況だ」と語る。例えば、核兵器を保有する米英仏中ロの5カ国が今年1月3日、核保有国同士の戦争回避を一番の責務とする共同声明を発表した。当時、日本の一部ではこの声明を大きく評価する声が上がったが、知り合いの日本政府の「安保屋」の1人は「こんなの、前から言っている話の繰り返し。何の新味もない」とけんもほろろだった。

先の外務省関係者は「核軍縮論者も核抑止論者も、核の惨禍を2度と繰り返してはいけないという目標から議論を始めている点では一緒だ。お互いが相手を罵り、みんなが力を合わせられないのは残念なことだ」と話した。

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文=牧野愛博

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