ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は首都キエフの市街地から、ロシア軍に狙われていても「ここで戦う」と、国民を勇気づけるようなメッセージを発信した。ロシアの首都モスクワでは、数多くの著名人たちや大勢の市民が、警察に逮捕される危険を冒し、ウクライナ侵攻への抗議デモを続けている。
こうした行動は、人々の正義と勇気を表すものだ。そして同時に、ウクライナが持つ“最強の武器”の一つが、情報であることも示している。
戦争の勝敗はもはや、戦場だけで決まるものではない。真の勝者となるのは、戦いのストーリーを支配した者だ。そして、現代の政治家の中で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領ほど、このことをよく理解している人物はいないはずだ。
プーチンは就任以来、自らの戦略的な目的のために、米国やその他各国で政情不安を煽り、選挙を混乱させようと巧妙にディスインフォメーション(人を欺き、混乱させるための偽情報)を拡散。従来型メディアとソーシャルメディアの双方を、巧みに操ってきた。
2014年にクリミアを併合したときにも、プーチンはその下地を作るために偽情報を広め、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州で戦闘を継続させるためにも、ディスインフォメーションを使ってきた。
そして今回のウクライナ侵攻の口実を作るためにも、プーチンは同様の行動を取った。米国はそれらの多くを暴き出してきたが、それでもロシアの独裁的指導者は、自らの戦争を正当化するため、偽情報を広め続けた。
真実はウクライナにある
ただし、そうしたプーチンの戦略はいま、うまく機能していない。ディスインフォメーションは、歴史や人々の記憶、アイデンティティに太刀打ちできるものではないからだろう。この戦争は第2次世界大戦の亡霊と、それによってもたらされたあらゆる恐怖を呼び起こしたという点で、終戦後に起きた他のどの紛争とも異なる。
プーチン自身も、目的はウクライナの“非ナチ化”だと訴え、欧州の第2次世界大戦の記憶を利用し、侵攻を正当化しようとした。だが、そうしたプーチンのばかげた主張は、ゼレンスキーの反論にさらに力を与えただけだった。