まさに世界のクラウド市場をリードするAWS。その「デジタルイノベーション・リード」であり、世界のアマゾンで数十人しかいないといわれる「CX Bar Raiser」でもある松本肇子氏に、アマゾン ウェブ サービスのDXエバンジェリストに聞く、『顧客起点』の金融業界変革 に続き、産業界でのDXの事例、そしてデジタルのメリットや可能性について聞いた。
「ありそうでなかったWow体験」を
アマゾンにとってのイノベーションは、決して技術革新といわれるような大仰なものではなく、暮らしを便利により楽しくする「ありそうでなかったWow体験」です。
そして、まさに「ありそうでなかった」体験を提供するサービスが、私がリードしたデジタルイノベーション プログラムのワークショップから生まれました。それがイーデザイン損保の「私のタントウシャ」です。
これは「事故にあったお客様」と「電話対応するクルー」の会話体験向上を目標とした企画でした。
ワークショップでは、「ありそうでなかった」への希求意識を自然に共有・確認することができました。「私のタントウシャ」というサービス名も、ローンチの数カ月前に逆算して書いた仮想プレスリリースのまま。始点とゴールが完全に合致した証左ですね。
まずワークショップではお客様のあるべき姿(What)を作り、それをどうやって(How)創るかは、後から肉付けすることもあります。「私のタントウシャ」でも、まず「What」である「お客様に合わせた担当者を選任する仕組み」をワークショップで構築した後、「How」にあたる肉付けは実際のプロジェクト開発工程でされました。
具体的に「What」と組み合わされたのは、アメリカの産業心理学者デビッド・メリル氏による「ソーシャルスタイル理論」でした。約40秒のアンケート結果をこの理論に照らして解析し、お客様のコミュニケーションスタイルを推定。万が一の事故の際には、AIを活用し、そのスタイルや事故の内容からお客様にぴったりの担当者を選任するという仕組みを実現することで、「私のタントウシャ」というサービスが完成したのです。
プロジェクトが成功するか失敗に終わるかは、なにより「お客様起点でやり通せる」というリーダーの自信、プロジェクトへのコミットメントレベルの高さで決まります。イーデザイン損保の桑原茂雄社長にはその点で申し分なく強い自信と覚悟がありました。また、プロジェクトが進行するごとに必要なリソースを迅速に付与して権限委譲する、その反射神経と決断力においても卓越されていました。
結果、「私のタントウシャ」のプロジェクトは大成功。試行段階で92%のお客様から最大評価の「満足点」が寄せられました。イーデザイン損保ではその後にビジネスモデル特許を出願、本格的にサービスを開始しています。