OBは「事故が起きたとき、遺族の心情やパイロットの名誉を考えると、操縦ミスが原因だと簡単に結論づけたくない気持ちが働く。でも、そうなると機体が悪いのか、アビオニクス(電子機器)なのか、という話から、じゃあ同型機の機体をすべて点検しろというように、極端な話につながっていく。こんな発想をするのは日本だけですよ」と話す。
確かに昨年8月も、米軍普天間飛行場の垂直離着陸輸送機MV-22オスプレイの部品が落下する事故が起きたが、米軍は同型機の飛行を停止しなかった。2017年8月には、豪州沖で訓練中のオスプレイが墜落したことを受け、小野寺五典防衛相(当時)が、米側に日本国内でのオスプレイの飛行自粛を求めたこともあった。このときも、米軍は日本国内での同型機の飛行を続けた。OBは「事故を心配する市民の気持ちはよくわかる。でも、よほどのことがない限り、まず任務を果たすのが先だと考えるのが世界の軍隊の考え方。冷酷に聞こえるかもしれないが、在日米軍のやり方が特別に横暴だというわけではない」とも話す。
別の元自衛隊幹部は「日本は専守防衛を国是としている。市民に被害を出さないためには、前に出て戦った方が合理的なのだが、専守防衛を守ろうとすれば、日本の国土が戦場になることも覚悟しなければならない」とも話す。「私たちも専守防衛は素晴らしい理念だと思う。だから、前に出て戦うことは難しい。結局、長距離のスタンドオフミサイルなどを保有するしか、打つ手がないことになる」
もちろん、民主主義の日本では、人々の支持が何よりも大切だ。市民に愛されないようでは、自衛隊も十分な活動ができるわけがない。岸防衛相は2月4日の記者会見で、小松基地のF-15については訓練飛行を行っていない事実を明らかにした。安全点検や緊急時の手順についての教育などが終わり次第、「地元の自治体をはじめとする皆様の理解を得ながら、訓練飛行を実施していく」と語った。結果として「F-15の飛行停止は予定していない」とした1日の会見を一部修正した格好になった。岸氏は4日の会見で、訓練飛行は実施しないが、スクランブルを含めて、それ以外の任務飛行は引き続き行うという意味から、「飛行停止の措置を行わないと申し上げた。正確に申し上げておけばよかった」とも語った。
夜間訓練飛行も、航空自衛隊のパイロットが技量を維持するうえで重要な役割を担っている。4日の岸防衛相の発言は、厳しい安全保障環境に立ち向かわなければいけない自衛隊の任務と、市民からの支持を得なければいけない民主主義を尊重するなかで出した、防衛省・自衛隊なりの精いっぱいの結論だったのかもしれない。
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