後輩たちの身を案じる自衛隊OBたちだが、事故発生の翌2月1日、岸信夫防衛相の記者会見を聞いて一安心したという。岸氏は、記者から「F-15が全国に約200機、配備されているが、機体の安全点検のために一旦飛行中止にする考えはないのか」と問われ、こう答えた。「飛行の安全に万全を期していく考えだが、F-15の飛行停止は予定していない」
この発言には伏線があった。2011年10月7日に起きたF-15の燃料タンク落下事故だ。小松基地から北北東に約4キロ離れた能美市で、F-15の燃料タンクなどが落下する事故が発生した。能美市など周辺の自治体や県選出国会議員などが怒り、全国のF-15が一時期、すべて飛行を停止する騒ぎになった。最終的には、F-15の点検を行ったほか、防衛省事務次官が能美市などを訪れて陳謝したことで、飛行停止は解除された。ただ、最後まで処分が続いた小松基地では、F-15の飛行訓練が再開されたのは2カ月以上経った同年12月16日だった。
当時、現役だった空自OBの1人は「あのころは、日本の周囲の安全保障環境にもまだ余裕がある時代だった。それでも、スクランブル(対領空侵犯措置)の主力であるF-15が突然飛べなくなったため、大騒ぎになった。とりあえず、F-4戦闘機で、穴が空いたスクランブルを埋めた」と語る。防衛省の資料によれば、2011年度のスクランブル発進回数は425回だった。
だが、中国軍の勢力拡大などが続き、2020年度スクランブル発進回数は725回。21年度(21年4月~22年3月)も昨年末段階ですでに785回を数え、このまま行けば1千回を超えそうだ。このうち、全体の7割を超える525回のスクランブルを行った南西航空方面隊の飛行隊には最新鋭のF-35はなく、すべてF-15に頼っている。このOBは「F-4も退役した今、F-15が飛行停止してしまったら、南西諸島などにやってくる中国軍機の対応ができなくなるところだった」と語る。