小山薫堂(以下、小山):「blank」は高野さんが所有するビルの2階にありますが、以前は高野さんの個室だったんですよね。
高野 真(以下、高野):そう、秘書と僕のいる社長室だった。でも、僕らが8階に移動することになったので、2階はお客様と会議しながら食事もできるようにと、厨房(ちゅうぼう)を新設したんです。ところが4階に会議室があるものだから、全然使わなくて。
小山:厨房付き会議室ってすごく斬新だと思うんですけどね(笑)。
高野:これはもったいないなと思ったとき、薫堂さんなら一緒に何か面白いことをできるんじゃないかと。しかも、知り合って15年以上にもなるのに一度も仕事をしたことがなかったから、よい機会だと感じました。
小山:最初にふたりで話し合って決めたのは「儲けを考えない料理店」でしたね。商売優先でやろうとすると、つまらない店になる可能性が大きいから。
高野:僕は「家庭」にいるような、雰囲気のよいコミュニティができれば充分だった。ただ、ある程度の資金を投じるわけだから、ビジネスとして成り立たせたい欲は正直あります。外資系金融に勤める友人たちがバーや小さな飲食店を趣味でやっているのだけど、僕には「趣味の延長」「赤字覚悟」という気はまったくない。儲からなくてもいいけれど損はしないラインで、一種のブランディングツールとしてお金以外の価値を生み出すことを重要視しています。
小山:「お金以外の価値」は、高野さんにとっては具体的に何ですか?
高野:やはり出会いですよね。限定50人の会員は、もともとの僕の友人と薫堂さんの友人が半々。会員は一度の食事に最大3人まで同伴OKというシステムで、信用できる輪のなかで新しい人と、しかも仕事以外の場で出会える。特に50歳過ぎの、ある程度のポジションについた人間にとって、新しい友人や気が置けない仲間ができるのは非常に貴重なことだと思うんです。
小山:サロンの役目をblankは果たしているわけですね。
高野:やはり会員を募るための薫堂さんが出した案内状がよかったなと思います。「ひとりでふらりと立ち寄っても歓迎され、時には気の合う仲間がそこに集っていて、どんなワガママでも聞いてくれる料理人がいる」と書かれていて、「(そういう店を)待ってました!」という声がかなり多かった。ありがたいことに、いまも会員の空きが出るのを待っている人がいますしね。