ライフスタイル

2022.01.22 18:00

小山薫堂 x 高野真スペシャル対談 「儲けを考えない」料理店

東京blank物語 vol.16


飲食はレバレッジの効かないビジネス


小山:高野さんにとっては初の飲食業ですが、2年経って、飲食だからこそ学べたものはありますか?
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高野:金融も出版も飲食も、経営というのは基本どれも同じだと思います。ただ、飲食は本当に儲かるというイメージがない。チェーン展開など薄利多売でなら可能だけど、限られた人数に対して価値の高いものを売って儲けるというのは難しいんだなとあらためて実感しました。レバレッジが効かないビジネスということですね。

小山:そうですね。飲食業は、誠実にやればやるほど、レバレッジは効かない。

高野:『Forbes JAPAN』という雑誌も同じなんですよ。売ろうとすると、ゴシップとか、それこそセックスとかを扱わないといけない。でも、それは絶対にやらない。レバレッジは効かないけれど、バリューとブランディングが大きいからやるというのも、経営の面白さのひとつだと思いますね。
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小山:では、会員の皆さんはblankのどこに魅力を感じていると思いますか?

高野:さっき言った出会いがひとつ。あとはやはり再現メニューじゃないですか。「昔食べたアレが食べたい」に応えられる店ってほかにないと思うんです。予約の取れない名店の料理が食べられるだけでなく、若いときによく食べた定食屋の料理も食べられる。僕なんかは自分の思い出と一緒に食事をしているところがありますね。音楽もそういうの、よくあるでしょう。

小山:当時の気分を思い出したり、失恋したときの悲しみに襲われたり(笑)。

高野:そうそう、なんとなく心が痛くなってね。逆を言えば、当時と同じ味でないと意味がないわけです。一度、ゴローちゃん(blankの専属料理人)がある再現メニューにアレンジを加えちゃって。醤油系の味を味噌味にしたのかな。そうなると自分にとってはもうおいしくない(笑)。

小山:“人の記憶のなかにある料理”が基準なんですよね。そういう意味では、blankは唯一無二の店かもしれません。(次号に続く)


今月の一皿

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高野の学生時代の行きつけ、早稲田にある「洋庖丁」の「なすと肉のしょうが焼」。濃いめの味付けで、飯が進む。

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都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

文=小山薫堂 写真=金 洋秀

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