不合格でも、「出願した中で最難関の大学」がその人の成功を決める
本書では、学力という「パフォーマンス」についても興味深い考察がなされている。一流大学・名門高校に出願したが僅差で合格できなかった人は、学力においては合格した人とそれほど違いはないために、卒業後の年収はほぼ同等だという研究結果が引用されている。
「プリンストン大学のふたりの経済学者が大がかりな調査を行なって、大学卒業後の長期的な成功を決める要素を特定した(中略)。まず、名門大学に願書を出したが、何らかの理由でランクが落ちる大学に入った学生について調べた。(中略)アイビーリーグの場合、卒業して10年後の年収の中央値は七万ドル。この数字は、アイビーリーグ以外の大学の卒業生の二倍以上に当たる。ところが、(中略)アイビーリーグを蹴ってランクの劣る大学に入った学生は、アイビーリーグの卒業生と同じだけ稼いでいたのである。つまりプリンストン大学に受かったが、ノースイースタン大学に入った学生が年収を叩き出す力は、プリンストン大学の卒業生に何ら劣らなかったのだ。(中略)学校は重要ではない、重要なのはあなたの方だ!」
「(アイビーリーグの大学に落ちた学生の) SATの点数やGPAなど、その学生のあらゆるパフォーマンス基準を調べていたところ、卒業10年後の年収を決める重要な要素は、その学生が通った大学の名前ではなかった。長期にわたる成功を決める唯一の要因は卒業後の年収はほぼ同等だという研究結果が引用、たとえ合格しなかったにしろ、その生徒が出願した最難関大学にあった」
「その学生の将来の成功は、SATの点数や高校時代の成績が同じレベルにあった、ハーバード大学の学生の成功に何ら劣らなかったのである。言い換えれば、あなたの子どもの成功を決めるのは、『パフォーマンス』と『野心』──自分がどこに属していると自分が思うか—なのだ。」「たとえ名門校に落ちたとしても、本来の能力と野心とを発揮すれば戦っていけるのだ」
本書はアメリカの大学について言及しているが、日本に置き換えるとさしづめ、「東大に落ちた生徒で、受験時の成績が東大に受かった生徒と同じレベルにあった場合は、人生において、東大を卒業した人の成功に何ら劣らない成功を収められる」となるのだろうか。
よく言われる、結果のみならずプロセスを評価せよ、というのがこれに近いかもしれない。という前提だが、東大卒、というブランド力のあるなしに関わらず、努力して身につけた実力(=パフォーマンス)そのものが価値となる、と、筆者はバラバシ博士の主張を解釈した。
「富獄三十六景」は北斎72歳の作。ネットワーク科学が弾き出した『成功と年齢の関係』に続く
『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』(アルバート=ラズロ・バラバシ著、光文社刊)
高以良潤子◎ライター、翻訳者、ジャーナリスト、外資系企業プログラムマネジャー。シンガポールでの通信社記者経験、世界のビジネスリーダーへの取材実績あり。2015年より米国系大手EC企業勤務。インストラクショナルデザイナーを務めたのち、現在はプログラムマネジャーとして、31カ国語で展開するウェブサイトの言語品質を統括する。