キャリア・教育

2022.02.09 07:30

東大落第と東大卒、「将来の成功率」は同じ? ネットワーク科学が証明

石井節子

成功を決めるのは「ギャラリーのネットワークに乗れるかどうか」


さて、この「ネットワーク」とは何か。バラバシ博士が研究で取り上げたケースに基づいて説明しよう。

同博士は、パフォーマンスの測定が最も難しいとされるアートの世界に研究の対象を定めた。「手や指に絵の具をつけて子どもが描いた絵と現代絵画とを並べて飾ったら、(中略)どちらの絵が『優れているか』という判断は、時として難しい問題だ」。アートの世界の専門家は、瞬時に絵画の良し悪しを見分けられるのかもしれないが、それでも客観性のある数字に落とし込めるかどうかと言うのは、難しいのではないだろうか。

同博士は、アーティストとして成功している人を始め、膨大な数のアーティストの作品の移動を観察・分析した。「50万人に及ぶアーティストの展覧会の履歴を整理することで、特定の作品を評判の高い美術館やギャラリーに展示するネットワークが明らかになった。(中略)分析の結果、絵画が世界中を転々とする様子がわかるマップが完成した。(中略)もしあなたの作品がこれらのハブのどこかに展示されたのなら、あなたは、“成功のメリーゴーラウンド”に乗ったも同然である。(中略)絵画は売れ、価格は高騰する」。

つまり、「ギャラリーのネットワークに乗れるかどうか」がアーティストとしての成功を決めるのだ。同博士はアート市場に特有のパターンを見つけ、あるアーティストについて、その作品が最初の五年間に展示された美術館やギャラリーのデータをインプットすれば、次に展示される美術館やギャラリーのパターンが正確に予測でき、その後の何十年にもわたって、アーティストの軌跡をマッピング」することができるとの仮説を立て、実際に成功した。その正確さは、まるで未来を言い当てる占い師のようだったという。

「なぜ私達の予測はそれほど的中率が高かったのか。それはまさしく、美術界ではパフォーマンスが測定できないからだ。その作品がほかの作品よりも真に優れていると決定する方法がないときには、ネットワークが価値を決める」。「『成功を決めるのはあなたやあなたのパフォーマンスではなく、社会である』という成功の基本前提をそのまま反映している」。

もし「成功のメリーゴーラウンド」に乗り損ねたら?


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Getty Images

では、この成功のネットワーク──“成功のメリーゴーラウンド”に乗り損ねた場合には、チャンスはないのだろうか。

幸いなことに、アートの世界ではその道筋があったのだ。50万人のうちの227人だけが、三流の美術館やギャラリーでキャリアをスタートさせた後に成功のネットワークに乗ったのだが、これらのアーティストに共通するのが「いつも同じギャラリーで展示されるという、安定したルートを避けて」おり、「狙ってか偶然にか、あるときに作品を展示してもらったギャラリーが、アート界の中心へと通じる道に位置していた」という事実だったという。

一つのやり方が成功につながらなくてもあきらめず、アプローチを変えてチャレンジするのが肝要、ということになる。「あきらめず繰り返しチャレンジする」というと使い古された言葉だが、本書のすごいところは、「成功のメリーゴーラウンド」に最初から乗らなくても多様なチャレンジを繰り返して成功につながったケースを追跡してデータでマッピングし、そうしたイレギュラーな成功の存在を証明したところだ。

データに基づく事実に身を委ね、成功を信じてトライし続ける気持ちになれる、かもしれない。
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文=高以良潤子 編集=石井節子

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