「ネットワーク科学」というと馴染みが薄いかもしれないが、身近なものでいうと、グーグルの「ページランク」はこの分野の研究なしに成立しえなかった。検索において検索語に対する適切な結果を出すために用いられている、ウェブページの重要度を決定するためのアルゴリズム。これは、ネットワーク科学における、数学をベースに発明された成果なのだ。
ちなみに「フォーミュラ」とは、英語で方程式、法則の意。本書は「セルフヘルプ本」ではなく、「成功の法則」を科学に基づいて解明した「サイエンスヘルプ本」だという。
関連記事:「富獄三十六景」は北斎72歳の作。ネットワーク科学が弾き出した『成功と年齢の関係』
成功の公式において、パフォーマンスは「変数のひとつ」にすぎない
「懸命に働いているのに昇進できず、手柄は後から来た人に横取りされる」「自分と同等の才能があると思っていた画家が、自分よりずっと売れて有名になる」「自分のパフォーマンスの方が優れているはずなのに、まずまずの人が先に昇進する」「頑張ればいつか陽の目を見るはずと思ってきたのに、報われない」……。誰もが一度はこういった疑問を抱いたことがあるのではないだろうか。どれも、実績(=パフォーマンス)と、評価(=成功)が単純に比例していないことへの不可解さや不満だといえる。
Getty Images
この問いをネットワーク理論の観点から解き明かしたのが本書だ。
前提として、「成功」のなかには「自身の成長」「充足感」など個人的に享受しうるものも存在するが、本書では「成功」を社会的な地位、財産、収入、知名度などに限定して捉えている。その上で、成功とパフォーマンスとの関係を、「100メートル走のタイム、テニスの戦績」などパフォーマンスが明確に測定できる場合と、「音楽、アート」など測定しにくい場合とに分けて説明している。
前述の不満や疑問はパフォーマンスと成功がシンプルに比例しないことへの不条理さに端を発しているが、驚いたのは「(成功にとって)パフォーマンスはもちろん重要だが、それは『成功の公式』にとって変数のひとつにすぎない」のだという。
パフォーマンスが測定できない場合は、「ネットワーク」が成功を促す
では一体、何が成功を決める要因となっているのだろうか。まず、パフォーマンスが測定可能な場合についてみてみよう。テニスの戦績や、テストで評価する学業の成績など、パフォーマンスが明確に数値化できる場合は、「成功を決めるのは、ひとえにパフォーマンスだ」という。
「テニスと学業という、パフォーマンスが測定できる珍しい分野では、個人の優劣を決める要素について議論の余地がない。どちらの分野でも、パフォーマンスに基づくランキングと長期の成功とがぴたりと一致している」。
100メートル走を世界で一番速く走る人間は、二番目、三番目に速く走る人間よりも高い名声と社会的認知を手にするという事実に、異議を唱える余地はなさそうだ。パフォーマンスが数値化でき、測定できる分野では、「パフォーマンス=成功」となるのだ。
だが現実の社会では、テニスの世界ランキングや100メートル走、学力テストのように正確で一貫したパフォーマンス基準がある分野は少ない。著者によると、このようにパフォーマンスが測定できない場合に成功を促すのは「ネットワーク」だという。