文化が育ち、経済が動く。日本が取り込むべき「ハイエンド」とは何か?

シーナリーインタナショナル代表 齋藤峰明氏(左)、Urban Cabin Institute パートナー山田理絵


齋藤:19世紀の馬具商だったエルメスが続いているのは、常に新しい挑戦をしてきたからです。馬から車の時代になった時には、「このまま馬具ばかりつくっていたら、自分たちの子供の世代はどうやって生きていくんだ?」と転換しました。

その転換がうまくいったのは、エルメスが新しいことをやっていく人たちをお客様に抱えていたからです。新しいライフスタイルへの移行は、文化レベルが高い人たちから始まります。馬から車に真っ先に乗り換えたのも、貴族やブルジョワなどの富裕層でした。

そうした最先端をいく顧客がいるから、世の中の変化に敏感でいられるし、こういうものが欲しいんだろうな、ということがわかるんです。

山田:ハイエンドとは、「自分が本当に高まると感じさせてくれるもの」とお伝えしましたが、それを生み出すことは、常に時代の先を行って新しいイノベーションを起こしていくということにつながりますね。

今つくっているものがハイエンドでなくても、そこを目指そうとすることで商品やサービスが向上し、経済効果が生まれるという意味でも、ハイエンドの推進は重要だと考えます。



齋藤:その通り。この夏南仏に行きましたが、造船業が廃れて閑散としていた街が、文化的な香りがする賑やかな街になっていて驚きました。

ここ20〜30年に生まれた世界中の新しい富裕層が、夏になるとモナコやカンヌやサントロペに船でやってきます。年に2週間くらいしか乗らないけど、乗組員が数十位人いるようなスーパーヨットなので、それらを停泊させる広いドックが要る。そこでこの街は、富裕層向けの船の修理所になったんです。さらに、内装を手がけるため、大工や皮職人、家具職人などがフランス中から集まってきて、職人の街になりました。

富裕層には、こうした産業を活性化させる力があります。ファッションもオートクチュールとプレタポルテがあり、オートクチュールで富裕層の要望に応えると同時に、高度な技術を継承したり、チャレンジしたりしています。このようにハイエンドをうまく取り込んでいく必要がありますね。

山田:私は観光庁や文化庁の委員として、まさに世界のハイエンドな方々の取り込みを提案しています。スーパーヨットは沿岸を回るので、地方創生にもなります。観光は特に、上質化に挑戦しなければいけないと思います。

齋藤:富裕層であるかどうかは別として、やはり世の中のライフスタイルを変えていくのは文化的な生活をしている人たちです。例えばカリフォルニアの人たちは、他の州より健康志向で、ヘルシーとされる日本食への関心も高いです。パリでも、ある程度の人たちはお昼には日本食レストランに殺到しています。

また、スティーブ・ジョブズが禅を実践していたことも有名ですよね。物質的には豊かになった欧米文化の中で見失ったものがあるんじゃないかと、特に知識層は、日本の文化に興味を持っています。

山田:日本は世界のライフスタイルのリーダーになり得るということですよね。その発信が上手くなかったり、価値を伝えられる人が圧倒的に不足していたりするのが課題ですが、このポテンシャルを活かすためにはどうすれば良いでしょうか。

齋藤:G7の国々は、日本以外は欧米文化に属しますが、21世紀に入って、世界の知識層は異文化に対して興味と敬意を持ち、日本の精神性、伝統、自然との共生の考え方などを必要としています。まずは日本人がその動きに気づくことが必要です。

これまでの富裕層にとって、ラグジュアリーは自分のエゴを満足させるためのものでしたが、今は、自分が心地いいと同時に利他的であること、あるいは人や社会に貢献できるようなことで自分も幸せになることを望んでいます。そういう意味では、彼らの消費が地域や環境保全に還元される仕組みをつくることが大事。それは同時に、日本人にとっても良い環境をつくることにつながっていくはずです。

文=山田理絵/太田睦子

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