『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』がダイヤモンド社から発売された。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。同書の発刊を記念して、そのエッセンスをダイヤモンド・オンラインからの転載でお届けする。
なぜ、日本企業における従業員エンゲージメントは世界一低いのか?
今回は『アーキテクト思考』の使い方について、読者からの質問に回答する形で事例を交えながら解説しています。
本日の質問は以下になります。
「私は日本企業に勤めている50代中盤のサラリーマンです。過去の記憶が美化されているだけなのかもしれませんが、私が新卒で入社した頃と比較して、社員の会社へのエンゲージメント(愛着心)が低下しているように感じます。それも、特定の世代だけでなく、若手から私のような定年間際の社員まで一様に低下しているように思います。何かよい解決策はないものでしょうか?」
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質問者は自社のエンゲージメントの低下について危惧していますが、実はこれは多くの日本企業に共通する課題です。
これまで全世界で数多くのエンゲージメント調査が実施されてきましたが、その結果の多くで日本企業は世界の最下位に位置しています。一方で、米国企業は多くの調査結果において、世界の上位にいます。
短期志向で利益を上げるためには数千人単位のリストラも辞さない米国企業よりも、長期志向で終身雇用を掲げる日本企業へのエンゲージメントの方が著しく低いというのはいささか理解に苦しいかもしれませんが、これが様々な調査によって裏付けられた実態です。
日本人は多少の不満があっても辛抱強く一つの会社にしがみつく一方で、米国人は会社に不満があったり自分に適性がないと判断したりした際の新天地への切り替えが早いから、といった説明もできるかもしれません。
ただ、その結果として日本企業に長く勤める従業員のエンゲージメントが低かったら、業務の生産性を上げたり、リスクを取ってまでイノベーションを興そうとしたりといった、あえて難題に挑む気概は生まれないでしょう。
日本企業には、有効な経営理念があった
かつて日本の高度成長期をけん引した多くの日本企業には、経営者の経営哲学を表現した経営理念がありました。
例えばパナソニックの創業者の松下幸之助氏が提唱した、水道の水のように低価格で良質の商品を大量に供給するという経営哲学は、水道哲学として世間にも広まりました。産業人の使命は貧乏の克服であり、物資を潤沢に供給することで物価を下げ、消費者の手に容易に行き渡るようにしようという思想は、自身が消費者でもあった従業員にとって共感できる部分が多く、従業員のモチベーションを上げると同時に、彼らの会社に対するエンゲージメントを高めました。