コロナ禍においては、スタッフが故郷に帰ってしまう、輸出入が滞るなど、ショコラ業界も様々な困難を経験した。前回のサロン・デュ・ショコラでは、「その中で少しでも世の中を明るくしたい」と華やかなパッケージも多く、「つながり」をテーマにしたセレクションボックスなど、国境が閉ざされた時代の空気を反映していた。
20回目を迎えた2022年のテーマは、「未来と、笑おう。」だ。バイヤーの真野重雄さんは今回の傾向を次のように語る。
「もちろん、それぞれのショコラティエによってスタイルは違いますが、全般に、今回は、よりシンプルになった印象です。いかに価値を重ねていくかではなく、自分たちの身近な素材、文化、価値を見直す内容になっていると思います。見た目もシンプルになりましたし、味の作り方も、本質的なものを大切にしていると感じます」
サロン・デュ・ショコラ2022のテーマ「未来と、笑おう。」
そんな本質主義のブランドの一つが、1953年創業のチョコレートの老舗「ベルナシオン」だ。筆者は今年9月、フランス・リヨンに店を構える1953年創業のチョコレートの老舗「ベルナシオン」を訪問し、3代目であるフィリップ・ベルナシオン氏に工房を案内してもらった。2019年に初めてパリに支店を構えたが、パリの分も含め、チョコレートは全て、本店のすぐ裏にある工房で作られている。
家族経営で、スタッフの多くは地元出身、数十年働いている人も少なくない。43年働いているというフェルナンダ・ゴメスさんは「ベルナシオン一家は家族のような存在。ベルナシオンのチョコレートは、この土地の誇り」と語った。
「プレジデント」を持つベルナシオン ファミリー
チョコレートでできた薄いフリルをまとわせた、シグネチャーのチョコレートケーキ「プレジデント」。これは、創業者であるフィリップ氏の祖父、モーリス・ベルナシオン氏が、1975年に盟友ポール・ボキューズ氏がエリゼ宮でレジオン・ドヌール賞を贈られる際に同行し、当時のジスカールデスタン大統領のために作ったケーキ。味の決め手は、チェリーと門外不出のスパイスで作る自家製のキルシュで、今も多くの人が買い求める人気商品だ。
筆者が訪問したのは、料理のオリンピック「ボキューズ・ドール」に際し、マクロン大統領とフランス中のトップシェフを招いて行われた、晩餐会の数日前。「晩餐会では、より軽やかな新しいバージョンで提供します。今の大統領に捧げる、新しいプレジデントです」と、製菓責任者のクリストフ・ソター氏は誇らしげに話していた。
チョコレート部門の責任者、パスカル・ルジョル氏(右)
ショコラティエでありつつ、カカオ豆を買い付けて自分たちでブレンドし、ベースのチョコレート作りから手掛けてきたベルナシオン。チョコレート部門の責任者、パスカル・ルジョル氏は、「毎年味わいの異なるカカオ豆をブレンドし、いかに『ベルナシオンの味』をきちんと守り続けるかを考えています」と語る。