ノーベル賞もついに評価 シミュレーションと占いの違いは?

米プリンストン大学の真鍋淑郎博士(Photo by Mark Makela/Getty Images)


人類は常にこうした未来の話を論じていたわけではなく、平和な何もない時代には明日は今日とほぼ同じ世界が続くと漠然と考えていたに違いない。明日がどうなるかと不安になって未来を心配し始めるのは、ネットが普及して急に世界中の情報が入ってきたり、コロナウイルスの蔓延で人の交流が制限されたりと、社会のインフラが大きく変わったときだ。

しかし、人間は誰でも日々、目の前の道をどちらに曲がろうかと考え、今日はどこに行こうか、何をして何を食べようかと自分の直近の未来を無意識に予想し、いくつかの可能性の中から選択している。いわゆるコンピューターのシミュレーションのような行為をいろいろなレベルで経験に従って無意識に行っており、それは本質的に天気予報と変わらない。

昔はもっぱらこうした予想はことわざによる経験を元にした類推や、予想がつかないものは占い師に頼むしかなかったが、近代になれば学者や専門家、それにコンピューターが加わった「新しい占い産業」ができた。

占い師や予言者の言葉は経験や直感、もしくは星の配列や自然の兆候を解釈する独自の論理によるもので、現代の科学者から見ればあてずっぽうに見えるかもしれないが、こうした多くの占いの予想と学者の予想の当たる確率は大して違わないと言われる。

両者の違いは、結果の正しさを説明する検証可能な論理がどれだけ明確にできるかだろう。神のお告げと学者のシミュレーションは、後者が検証可能なことだ。もし結果が正しくなければ、使ったモデルを修正したり与えるデータを変えたりすることで、より多くの選択肢を選べるように改良することができる。

科学万能主義が主流の現代では、占い師はコンピューター・シミュレーションに取って代わられ、多くの人はネットという巨大なAIの支配するシミュレーション空間を使って、日々多かれ少なかれ自分の未来を占っている。それは厳密な数値解析ばかりでなく、SNSで飛び交う噂や市場のリコメンドやアドバイズなど、数字でわからないもっと直感に近い状況の読みも含まれる。


晩年のアーサー・C・クラーク(Photo by Luis Enrique Ascui/Getty Images)

そう考えるなら、クラークの言葉も、ただのジョークとは思えなくなってくるだろう。ちなみに私は獅子座で前向きな性格なので、占星術が単なる迷信とは切り捨てず、宇宙の未知の性質を予感させる何かの表現だと受け入れている。超ひも理論やホログラフィック理論などの最先端の奇怪な宇宙論を読んでいると、まるで占星術のようにも思えるので。

連載:人々はテレビを必要としないだろう
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文=服部 桂

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