──急速に変化する社会のなかで、業界を牽引してきた大企業の危機感も高まっています。大企業がイノベーションをうみ、生き残っていくためにはどのような仕掛けが必要なのでしょうか。
大企業はこれからも社会的なインパクトの大きい商品やサービスを提供していくと思います。そうした面においては、今後も大企業の存在意義が薄れることはないでしょう。
大企業がイノベーションを生むためには、いかに社員の働く場所と時間に柔軟性を高めることができるかにかかっています。パンデミックを経て、私たちはオフィスではなく自宅でも生産性を保ち働くことができることを学びました。決してパンデミック前と同じように長く働く必要はありません。賢く働くのです。
また、企業はオフィスという場だけではなく、人と人をつなげるという役割も担っていることも学びました。
日本の企業の例で言えば、私が一緒に仕事をした富士通は、柔軟に働き方を変化させています。
同社では、緊急事態宣言が発令されてから1週間で、6万人の社員がオフィス勤務から自宅勤務へと移行しました。しかし、先日担当者と話したところ、現在同社では仕事場が共同生活の場になるような再設計を進めているとのことでした。
パンデミックで学んだことを生かして、どんどん実験をしていくことが大企業にとって重要なのではないかと思います。
「柏の葉イノベーションフェス2021」でモデレーターを務めた医療ジャーナリスト/キャスターの森まどかとリンダ・グラットン
──20〜30代を中心に、転職や独立などを通して新たな働き方を模索する傾向が強まっている中、若い世代とマネジメントを担う世代との認識の違いや分断が多くの企業の課題です。このギャップを埋めるために、企業はどのようなことをすべきなのでしょうか。
パンデミックは、若手世代とマネージャーレベルの人々に同じ経験をもたらしました。世代の異なる人々が同じ経験をすることで、世代間で異なっていた意識のギャップはかなり近づいたと思っています。
柔軟性のある働き方は、実はマネージメントレベルの人々も本来求めていたことでした。このパンデミックを全員が経験したことによって、それは理想ではなく実現可能なことであることがわかりました。
それぞれの企業が抱える分断については、組織としてその課題を全社員で話し、それに対して実行できることがあるのであれば、どんどん実験するということが必要です。
また、企業の「ビジョン」を浸透させることも世代感のギャップを埋めるために重要なことです。
そのために必要なのは、まず、リーダーが自社の未来についてストーリーを描くこと。二つ目は、マネージャーレベルの社員が、グループのメンバーに対して企業の未来について、日々しっかりと語りかけること。三つ目は、社員間でその未来について語りあうということです。
私は著書の中でも繰り返し「コ・クリエーション」という言葉を使ってきましたが、社員一人ひとりが企業の未来を主体的に作りあげようとすることで、企業のビジョンが浸透されていくと思っています。