世界経済を襲う「日本化」、脱する道はあるか

ラリー・サマーズ / Getty Images

強い既視感を覚えるが、ラリー・サマーズが米国、もっと言えば世界経済全体が急速に「日本化」していると警鐘を鳴らしている。

20年前、米国は東京に対して、経済をしっかりさせるようせっつく側だった。2000年初め、当時米国の財務長官だったサマーズが筆者に語った言葉を引けば、米国は日本側に「デフレを追い払う」よう強く求めていた。

筆者はワシントンで記者をしていた時期、折に触れてサマーズをインタビューしていた。また、彼が財務長官に就任する1999年より前には、前任者のロバート・ルービンとも時折話す機会があった。ふたりとの話で毎回話題の中心になったのが、日本の成長停滞だった。

皮肉なことに、今では米国も、日本のように「落下して起き上がれない」状態に陥るおそれが出ている。米国では1970年代のようなインフレが再来するのではないかという懸念以上に、何年にもわたって経済不振が続くのではないかという懸念が広まっているようである。

「市場が折り込んでいるようなのは長期停滞、つまり日本化への逆戻りだ」。サマーズは10日、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで行った講演でそう語った。

ハーバード大学の教授であるサマーズはさらにこう続ける。「極端に低い金利はレバレッジの拡大やゾンビ企業の延命、金融バブルの永続化の土台になる。投機的なリスクの兆候が多くある。極端に低い金利やマイナス実質金利は問題だ」

これは米国に限った話ではない。欧州の大半は同様の危険に直面しているし、もし習近平国家主席が注意を払っていないのであれば中国もそうだろう。とはいえ、サマーズの主張は、説得的である半面、10年以上続く超金融緩和政策の真の問題点を覆い隠すものにもなっている。

たしかに資産バブルは気がかりだ。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界の需要とサプライチェーンに打撃を与えるなかで、ニューヨークや東京、その他あちこちで株価が史上最高値や30年ぶり高値をつけるというのは理解しがたい。米国では消費者物価の上昇率が31年ぶりの高さになっているため「スタグフレーション」について語られているが、それも株価高騰の理解にはあまり役立たないし、中国の生産者物価が26年ぶりの高い伸びになっているという報道にしてもそうだ。

だが、もっと大きな問題は、慢性的な自己満足だ。それこそが、経済成長が停滞し、「アニマルスピリッツ」を支えるイノベーション衝動が減退する「失われた10年」、いや「失われた数十年」を招くものだからだ。
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編集=江戸伸禎

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