ビジネス

2021.11.26

【独占】ペイパル・Paidy、超大型M&A秘話 合言葉は「WIN JAPAN」

ペイパル日本事業統括責任者・ピーター・ケネバン(写真中央)、Paidy代表取締役会長・ラッセル・カマー(同左)、Paidy代表取締役社長兼CEO・杉江陸(同右)


私たちは「日本でしっかり勝ち切らなければいけない」「日本で勝ち切らなければ世界に向けても戦えない」というなかで、「Win JAPAN」という目標を持っていた。私たちが上場をしようとしていたのは、スケールしていくためには大きな資本が必要だったから。M&Aのお声がけをいただいたときは、もちろんIPO前提だったわけだが、「Win JAPAN」という掲げていた目標に対して、巨大な、グローバルリーダーで、世界的なネットワークを持ち、事業としての組み合わせのいいペイパルが支えになるという選択肢ができたことで議論が始まった。

その過程で、両社のなかで、「日本でしっかり勝ち切る」という大きな共通目標を共有できたからこそ、かなり急ぎでM&Aという形をつくっていった。ずっと関係性はあったが、発表した9月8日の少し前になってM&Aの話をはじめた。正直に言うと、心理的抵抗はもちろんあったが、企業として正しいことを実行するという際に、勝ち切るためには一緒になった方がいいというのが決断のポイントだった。

カマー:陸の発言通りで、企業にとって、組織にとって、正しいこととは何か、を一番の判断材料にした点を強調したい。

「驚き」に対して驚いている


──3000億円の買収についての評価は。


ケネバン:
当然、妥当な金額だと思っている。ペイパル側では、デューデリジェンス(資産査定)をはじめ、しっかりとしたプロセスを積んで評価をしている。今後のPaidyの成長、類似企業との比較のなかで、正しく評価して、非常に妥当なバリエーションであり、それ以上の期待をしている。(3000億円という金額でのスタートアップの買収に驚いていることに対して)なぜ、みんな驚いているのか、と、驚きに対して驚いている。

カマー:ピーターが驚いたのは、米国人から見たら当然のことだからだ。とはいえ、3000億円を100%ゴクっと飲める会社が日本にはまだ現れていないという意味で、日本で驚きを持って受け止められたのは不思議ではない。こうした大型M&Aに対する意識は、日本におけるスタートアップとの協業のなかでは足りない点かもしれない。もちろんペイパルの素晴らしい経営力ありきではあるが。

私も、3000億円という金額は、妥当だと思っている。なぜなら、それよりも高くても、安くても、このディールが成立しなかったわけだから(笑)。なぜ、成立したか。それは、長年にわたる協力関係、オープンなコミュニケーションがあり、お互いを理解した上で、日本で何を作り出せるかに対する妥当な金額だから。(3000億円より最初安く提示されて2人が交渉したという報道があったが)あれは嘘。

杉江:私がPaidyに入社したのは4年前。当時は企業価値70億円のスタートアップで、直近が1400億円、今回が3000億円。資金調達する際には毎回、どこがスイートスポットか、という議論はもちろんあるなかで、高過ぎても期待値に応えられなくなるから困る。一方で、評価額を高くするなかで、次の自分たちを再定義して、期待値に見合う企業にならなければならない。それを実現させて、次の資金調達をして、また期待値に応えるということの繰り返しだ。

「私たちがこのように世の中を変える」と言い、コミットをしたことをやり切る。ストーリーテリングをしっかりして、数字にコミットしていくことを、調達ラウンドごとにしっかりと完結し続けること。今回のM&Aを、100%の資金調達という言い方をした際に、3000億円という期待値に応えるというのは私たちの責任だ。3000億円を安く感じられるような仕事をしなければいけないという意味では、非常に象徴的な数字で、燃えるものがある。この期待値に対する決意表明をクリアすると、また両社のチャンスが広がり、面白い未来が待っている。
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文=フォーブスジャパン編集部 写真=ヤン・ブース

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