シリーズC(19年8月)では、まだ半信半疑だった。海外の投資家にもアプローチしたが、「日本の起業家は、『グローバルを目指せ』と耳にタコができるほど言われる。僕らはドメスティックなので、興味をもってもらえるかなと」。
しかし、話をしに行くと、ある投資家から「KPIがスーパーヒーローだ」と称賛された。国内法人数187万社のうち同社の顧客は1〜2%。国内市場に限っても成長余地は大きく、ドメスティックであることをネガティブにとらえられていなかった。
宮田も自信がついたようだ。今回のシリーズDでは、「投資家側のほうの期待値が高くて、むしろお断りしなければいけないことが多かった」と明かす。
経営者としての自己評価は60点
ユニコーンになる目標を達成したのだから、この1年はさぞ自己評価が高いに違いない。そう予想して自己採点してもらうと、「会社は90点。でも、経営者は60点」と自身に辛口だった。
「経営者の評価の半分が業績だとしたら、そこは満点でした。一方、残り半分が会社の未来のために何か残すことだとしたら、この1年は新しいバリュー(行動指針)をつくったくらいだった。それはせいぜい10点。業績と合わせて60点です」
ただ、宮田は水面下で残り40点分の働きをしていた。これまでSmartHRは、本体で新プロダクトをつくるか、外部から起業家を呼んで新会社をつくるかというふたつのパターンで新規事業にトライしてきた。いま新たに取り組んでいるのは、創業者が外で新規事業を立ち上げる第三の道だ。
「権限委譲を進めてきたので、本体はもう経営チームに任せられます。僕は新規事業に寄っていく。中身は内緒ですが、来年頭から始めたいと考えています」
中身について聞こうと食い下がると、「SmartHRと少し方向性は違うけど、シナジーはあります。新事業が成功すれば、SmartHRも大きくなるはず。それができたら残りの40点を加えてもいいですね」。
権限委譲した経営チームで本体を育て、自身がつくる新規事業で側面から刺激を与える。うまくかみ合えば、次は企業価値1兆円以上のデカコーンが見えてくる。
「目指しているのは、SmartHRを社会インフラにすること。企業価値はあとからついてくる話ですから」
そうけむに巻かれたが、最後に社会インフラになる自信はあるかと問うと、落ち着いてこう答えた。
「『自信がある』と言うと、少し違う。もう『そうなる』と思ってます」