ユニコーンの仲間入りをした、クラウド人事労務を展開する起業家が見据える先とは。
「あれだけユニコーンを意識していたのに、いざなると実感はないですね。出社している時期ならお祝いの会をやったかもしれませんが、リモートだったので、みんな『嘘みたいだよね』と。社内は変わってない。変わったのは、ほかの経営者の方からいじられる機会が増えたことくらいです(笑)」
クラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRは2021年6月、米セコイア・キャピタル・グローバル・エクイティーズなど8社から計156億円の資金調達を行った。このシリーズDラウンドで企業価値は推定1731億円となり、国内6社目のユニコーンに。大いに注目を集めたが、代表取締役CEOの宮田は興奮する素振りを見せずに穏やかに振り返った。
宮田がユニコーンを意識し始めたのは17年だ。ある経営者から、「時価総額1000億円未満の会社は存在していないのと同じ」と言われた。そのころSmartHRは事業開始から3年目で、企業価値は約20億円。宮田は「カチンときた」が、気になって調べてみると、納得する部分もあった。
「誰もが知っていて日々利用している企業は1兆円規模。1000億円だと、一部の地域だけだったり、年に2〜3回利用するかしないかだったりするサービスの会社さんが多かった。僕たちは社会のインフラをつくりたい。1000億円になってやっとスタートラインだという話は一理あると思った」
とはいえ、当時はまだ現実感がなかった。具体的な目標として社内で「ユニコーンになる」と掲げ始めたのは、シリーズBの資金調達を行った18年だ。
シリーズBではSPV(Special Purpose Vehicle)を活用した。SPVは、特定企業への投資を目的とする専用ファンドを通して資金調達するスキームだ。通常は自社で投資家回りをして資金を集めるが、SPVはファンドマネジャーがその役割を担う。このファンド組成を提案したのが、500 Startups Japan 代表兼マネージングパートナーのジェイムス・ライニー(現Coral Capital創業パートナーCEO)だった。
「ジェイムスが示したタームシートの時価総額欄が空欄でした。驚いて尋ねたら、『好きな金額を書いていい』。40億円でも厳しいと思っていましたが、思い切って65億円と書いたら、『SmartHRがユニコーンになると確信している。1000億円になるのだから、40億も65億も誤差の範囲』と返ってきた。自分たちが信じていないことを投資家が信じていた。僕らが頑張らないわけにはいかない」
そこからの快進撃は振り返るまでもないだろう。ARR(年間経常収益)は、SaaSスタートアップの理想の成長曲線といわれる「T2D3」のマイルストーンを達成し続けている。コロナ禍でも21年4〜6月ベースのARR45億円、前年比106%成長と、勢いは衰えていない。