キャリア・教育

2021.11.23 11:00

過激番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」の舞台裏をすべて語ろう

Forbes JAPAN編集部

足を使って現実の世界をよく見たい


北野:僕は「職業」には2つのフェーズがあると考えています。1つが食べていくためとか、何かしらの成果を出すといったフェーズ。もう1つは、それをやること自体が「生きること」とイコールになり、不可分になったフェーズです。仕事を続けることによって自らも深まっていく。連載タイトルの「職業道」にはそういった意味を込めています。

上出:僕にとって、その「道」というのは、いかにして世界と交わるかに尽きる気がします。なぜ、自分はこれをやるべきなのか、どういう意味があるのかと常に考えて仕事していますから。

北野:自分の仕事領域のレジェンドとか、延長線上にある人って、どなたか浮かびますか?

上出:不勉強なのでかつてのテレビマンを知らないし、そもそもテレビを見て育ってないんですよ。テレビという枠のなかで戦い続けているという意味で、東海テレビの阿武野(勝彦)プロデューサーはひとりの先達として背中を見させてもらっています。

僕のやりたいことのトップにいるのは、作家のジョージ・オーウェル(1903-1950)です。デビュー作の『パリ・ロンドン放浪記』は、自らパリやロンドンの貧民街で暮らしたルポ。社会の最下層にいる人間がどういう心理に陥っているかとか、権力者にこびへつらうことを自分のアイデンティティにしてしまうんだとか、自ら路上で見たものを書きました。そういう姿勢を『動物農場』などでも続けた結果、全体主義的なディストピアの大作『一九八四年』を完成させた。足を使って現実の世界をよく見て、その結果、違う世界をつくり上げたんですね。

北野:上出さん自身、絶望の世界を精緻に見ていけば希望が見えると感じますか?

上出:暗ければ暗いほど小さな明かりがよく見えるのと同じで、“ハッピーエブリデー”な人から希望は聞き出せないですよ、実感が伴わないし。絶望のなかにこそ希望を見いだせるのは紛れもない事実ですが、それを僕たちが商材として世の中に見せて、お金を稼いでいる。そこはやっぱり難しい議論だと思います。


上出遼平◎1989年、東京都生まれ。テレビディレクター、プロデューサー。早稲田大学卒業後、2011年テレビ東京入社。17年から不定期特番で放送する「ハイパーハードボイルドグルメリポート」シリーズでは、企画、演出、編集まで番組制作の全過程を担う。第6回(19年7月15日放送)が第57回ギャラクシー賞・テレビ部門入賞。21年4月からSpotifyで新録した音声のみの番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision」を配信開始。著書『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(朝日新聞出版)。趣味は山歩き。

文=神吉弘邦 写真=桑嶋 維(怪物制作所)

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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