北野:いまと1年前を比べ、変化はありましたか?
上出:僕、変わっていないんですよ。コロナの前からずっと家で作業しているか、ロケに行くかの繰り返しだったので。この1年で新しいことといえば、映像がない音声配信を始めたことです。ゲリラ的なものの重要性はあらためて感じました。僕の「ハイパーハードボイルドグルメリポート」という番組は、もともとの成り立ちも、枠のあり方もゲリラ的。結果、「どういうことだ」と怒られるんですけど(笑)。
北野:そんな上出さんを組織人としてギリギリ引き止めているものは、何でしょう。
上出:合理主義的ですが、所属している組織が地上波の電波をもっている点ですね。ものをつくって人に見てもらいたい欲望が僕にある以上、このカードは強い。参入障壁が高く、すさまじい既得権益なのでそれを逃す手はないという考えはあります。僕はフリーの人とかかわることが多いですが、彼らと話すほど、地上波に期待してくれているのがわかる。
僕は地上波がブルーオーシャンだと思っています。それこそ既得権益の弊害ですが、これでええんちゃうということが50年続いてきたので、凝り固まっている。時代がグワーッて変わっているのにテレビはあまり変わっていない。そのギャップを埋める番組づくりに可能性を見ています。
北野:わかりやすくほかの番組と違うのは「勇気」ですよね。「そこ行くんだ」みたいな危険をものともしない。とはいえ、相手から本音を引き出せる、カメラで撮れない人とはスキルの差もあるわけじゃないですか。その差は自分で何だと思いますか?
上出:まずは「気合」が大事と声を大にして言いたいです。そのうえで本音を引き出せるかのハードルがついて回ります。気合をもって居続けたら、相手が心を開いてくれる可能性が高い。みんなが去っていくのに、僕みたいなのが引っついて「飯、何食うんですか?」と語りかけたら「こいつ、ここにいるのが嫌じゃないんだ」と思われるので。
北野:いろんな出会いをしてきて、「人」はみんな一緒だと思いますか? それぞれ違うと思いますか?
上出:自分とは違うなと思っていたら意外と一緒だったり、同じ人だろうと思ったら全然違うなとも思うし。最初にどっちの目線に自分を設定するかで見え方が変わる気がします。
北野:取材や編集のときもその目線が出てくる。