国際派ラグビークラブが育む、子どもたちが「正解のない時代を生き抜く」力

写真=渋谷インターナショナルラグビークラブ


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徳増氏の誕生日を祝うために世界各国から寄せられたバースデイ・メッセージ
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先日、徳増氏の誕生日会をクラブでお祝いする機会があったが、世界中に散らばったSIRCの卒業生たちがSNSでつながり、1本のバースデイ・メッセージ動画が制作された。たまたま子ども時代に東京でラグビーをしたという偶然の経験が、その後も国際的な友情関係を築いていることに保護者たちはいたく感動したという。

「ラグビーは、一人だけでトライすることはできません。みんなでパスをつないでいくスポーツです。だから、メンバー同士は瞬間的に目と目で会話をするわけです。『いまパスを回して大丈夫か?』『大丈夫だぞー!』って。こうした言葉を超えたコミュニケーションを子ども時代にさまざまな国の子どもと同じチームメイトとしてできるのは、その子にとって掛け替えのない経験となるはずです。心と心を通わすコミュニケーションほど、厚い友情関係を築いてくれるものはありませんから」(徳増氏)

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信頼関係を築いた仲間にしか回せないラグビーのパスには、心の交流という深い意味合いが含まれている
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女子ラグビーを盛り上げていきたい


設立したばかりの頃は少し変わったラグビークラブと思われていたというが、徳増氏をはじめ、コーチ陣や運営スタッフの方たちの地道な努力によってチームへの理解が広まり、最近では日本のスクールからの試合や交流の申し込みも増えているという。そんなSIRCの今後の展開を尋ねると、次のような将来像を話してくれた。

「日本のラグビーは長らく“男性のスポーツ”という指摘を受け続けてきました。ところが、2016年リオデジャネイロオリンピックや東京2020オリンピックに女子の7人制ラグビーが採用されたことで関心が高まり、日本のラグビー界も女性が輝けるフィールドへと変わっていく兆しが見えはじめています。

しかし現状ですと、どうしても女性のプレーヤー数が少ないので、SIRCでは『ガールズ・ラグビーフェスティバル』という学園祭のような楽しい催しを開催して、女子ラグビーを盛り上げていきたいと考えています。先日も女性で初めて駐日英大使に就任したジュリア・ロングボトムさんにこの催しの話をすると、『私もぜひ参加したい』と賛同してくださいました。

SIRCはもともとサポートスタッフの多くを女性が務めるなど、他のラグビークラブと比べて女性が活躍しているクラブです。彼女たちの力もお借りして、今後は国籍や文化、運動能力におけるダイバーシティはもちろん、ジェンダーのダイバーシティも実現させ、多様性の輪を広げていきたいですね」(徳増氏)

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最近では、トンガ王国で起きた災害への募金活動も実施。普段からSIRCに参加している学生ボランティアたちと、社会貢献や国際交流につながる一歩を踏み出した

多様性を尊重するとは、言い換えればお互いの違いを認め合い、自分と相手の両方を大切にするということだが、頭ではわかっても実現させるのは意外と難しい。しかし、子ども時代からSIRCのような環境に身を置ければ、頭ではなく、体で覚えることができるだろう。

答えがひとつとは限らないこれからの社会で子どもたちに必要とされるのは、こうした違いを受け入れた上で重ねるコミュニケーションに違いない。


徳増浩司◎1952年生まれ。国際基督教大学卒。1975年に来日したラグビー・ウェールズ代表に魅了され、渡航を決意。現地のカーディフ教育大学でラグビーのコーチングを学んだ後、茗渓学園高等学校のラグビー部監督に就任、全国高校大会優勝に導く。1994年に日本ラグビーフットボール協会に入り、国際部長に。2003年からはラグビーW杯の招致活動に尽力し、日本大会の招致を実現。その間、アジアラグビー協会選出のワールドラグビーの理事やアジアラグビー協会会長なども歴任。現在は神田外語大学客員教授や英国ウェールズ政府の特使としても活躍。著書に『ラグビー もっとも受けたいコーチングの授業』『君たちは何をめざすのか 《ラグビーワールドカップ2019が教えてくれたもの》』(ともにベースボールマガジン社)。

文=高柳淳(パラサポWEB) 写真=渋谷インターナショナルラグビークラブ

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