モデルナ社は別の方向から戦略を進めた。現在はジェネバント社の管理下にあるマクラクランの送達システムに関する一連の特許の無効を求め、米国特許商標庁に提訴したのだ。しかし2020年7月、モデルナ社がワクチンの臨床試験に踏み切ると、特許商標庁は送達システムのおもな特許を認める裁定を下した(この件について、モデルナ社は控訴して係争中)。
モデルナ社のワクチンとファイザー=ビオンテック社のワクチンが認可されたあと、ペンシルベニア大学の著名なmRNA研究者ドリュー・ワイスマンが論文審査のある専門誌上で発表した結論によれば、どちらのワクチンも「アルナイラム社のオンパットロ製品に類似している」が、脂質の1つは所有権を主張できる独自の変種を用いた送達システムを使用しているという。両社ともにTコネクター装置を用いているということだった。
トーマス・マッデンはファイザー=ビオンテック社のワクチン送達システムの開発にあたって、4種類の脂質のうち2種類は改良版を使ったと述べている。自分のチームが脂質を改良していなかったら、オンパットロもファイザー=ビオンテック社のワクチンもFDAの認可は下りなかっただろうと主張する。
マクラクランはその新種を「焼き直しの技術革新」と片づけている。
コロナワクチン製造各社は米フォーブスの取材にどう応えたか
モデルナ社の広報責任者レイ・ジョーダンは米フォーブスの取材に文書で回答を寄せた。「確認したところ、旧型製品のなかにはテクミラ社の知的財産権の許諾を得たものがありました。しかし、(コロナワクチンを含む)新型製品は新技術を取り入れています」
ビオンテック社はコメントを差し控えた。ファイザー社の主任研究員ミカエル・ドルステンの話では、ファイザー=ビオンテック社のワクチンは正式に特許を取得済みで、最初に認可されたmRNA製品の開発中、年間30億回分を生産するために送達システムを修正したという。
「ごく小さな規模でうまくいっても、規模が大きくなればプロセスは変わってくる。似たように見えても、仮定条件は科学の発展や情報源の違いによって変化するものだ」とドルステンは言う。「名前とモル比が似ているからといって同じものだと決めつけるのは要注意だ」
ジェネバント社はコメントを出すのを控えたが、厳しい戦いが予想される。5月にバイデン政権は新型コロナワクチンの知的財産権の保有放棄を支持した。皮肉にも、こうした動きはモデルナ社とビオンテック社とファイザー社にむしろ有利に働く可能性がある。3社の巨額の利益に対するジェネバンド社からの損害賠償請求を阻めるからだ。
過去100年で最も重要と考えられる医学上の進歩に貢献していながら、その役割がバイオテクノロジー産業に抹消されたイアン・マクラクランにとっても、それでよかったのかもしれない。
「自分が貢献したという実感はたしかに持っている」とマクラクランは言う。「それをどう言われているか知っているし、この技術の始まりも見てきたから、複雑な心境だよ」