ビジネス

2021.11.02

消費を生む「ファンの囲い方」 中国市場の変化とダブルイレブンの勝ち筋

Getty Images


実はこれまでの中国マーケティングでは、年に複数回開催される商戦に向け、KOL(キーオピニオンリーダー)ライブやSNSマーケティングなどの戦術的な情報発信を行い、最終的にはECプラットフォームで刈り取るという流れが一般的だった。これは、中国市場で事業展開するほぼすべてのブランドが活用する手段だ。

消費者目線に立つと、一時的にそのブランドに興味を持ったとしても、すぐに現れる新しいブランドの情報が流れ込み、関心が移る。企業はそれを補うべく、さらに別の消費者を呼び込む……。

そんな、LTV(ライフタイムバリュー)の短い消耗戦を戦っていた。本来、企業にとっての刈り取りの受け皿となっていたECプラットフォームも、前述のように垣根が取り払われたことで、消費者も以前のように「まず天猫で購入」という典型的なケースも減少するだろう。DouyinやブランドごとのEC、京東に分散化していくことも考えられる。

いまブランドに求められるのは、独自の「受け皿(自社の経済圏)」を構築することだ。

すなわち、SNSやECプラットフォーム間を行き来する消費者の中から、自社ブランドに興味を持った、または購入した消費者をつなぎ留め、その消費者とのコミュニケーションを密にし、コミュニティを形成するということ。そしてコミュニティでブランドへの愛着を育成し、さらなる消費を生み出していくのだ。

この手法はすでに中国では「私域流量(Private Traffic)」という名で呼ばれ、一部のブランドで導入されている。
 
その成功モデルとされているのが中国の新鋭化粧品ブランド「完美日記(PerfectDiary)」。その手法はこうだ。

ECや店舗で同ブランドの商品を購入した消費者を、自社のWeChatグループに招き入れる。そこには「小完子(Xiao wan zi)」と呼ばれる女性のバーチャルアバターがおり、ファシリテーターとして商品紹介をしたり、ユーザーの商品体験やブランドへの意見募集などをしたりする。そうしてブランドへの理解、愛着を高め、最終的には自社の会員用ECでの購入に誘導する仕組みとなっている。

wechat
Getty Images

このモデルは中国国内でも注目を集め、多くの中国ブランド(競合化粧品ブランド「花西子(Floraris)」なども)で同様のモデルの導入が進められているという。

こうした「自社ブランド経済圏の確立」において、消費者がショッピングに殺到する「ダブルイレブン」は格好の場となる。

ダブルイレブンをはじめとするEC商戦の成功には、これまでの「とにかく数を売る」という目先の目標に囚われず、「商品を手にした消費者をどれだけ自社ファンとして取り込めたか」もKPIとして考える必要がある。

EC商戦では、とかく売上高が注目されがちだが、今年はその売上の先にあるもの。すなわち、自社ブランドのファン獲得の行方にも注目したいところだ。

文=濵野智成 編集=露原直人

ForbesBrandVoice

人気記事