一大セールの場であり、流通総額も急増する「ダブルイレブン」に向けては、地元の中国はもちろん、欧米豪、韓国など世界各国のブランドがマーケティング活動に注力する。なかでも日本は、国別の流通総額でこれまで5年連続1位。化粧品ブランドをはじめ、多数の企業が出店している。
ダブルイレブンの「天猫」でのオーダー総額(提供=トレンドExpress、出典=天猫)
しかし、現地のビジネス支援を行うなかで実感するのは「中国の市場環境が変化している」ということだ。
連載「どう戦う? これからの中国市場の攻略法」の第一回は、中国企業の事例とともにその変化を分析し、ダブルイレブンなどEC商戦での日本企業の戦い方を考える。
中国マーケットには、2つの変化が起きている。
その一つが「プラットフォーム依存からの脱却」。
これまでは最大手アリババグループの「天猫」が主戦場であり、そこに業界2位の「京東」が張り合うというのが図式だった。
多くのブランドは、このどちらかで商戦に挑むのが慣例になっており、天猫、京東ともに、自社プラットフォームのみでの販売を迫っていた。しかし、国家市場監督管理総局から今年3月、中国の独占禁止法に抵触するというお達しが出たのだ。
実際、2020年12月に同局はアリババを「商戦時における二者択一は独禁法違反」であるとして調査し、日本円にして約3250億円の罰金を科した。また、プラットフォーム側からブランドに対する値下げ要求も起きていたが、そうした圧力行為も禁止した。「店舗運営商の自主権」が認められることとなった。
ブランドからすると、これまでは「天猫」の要請に従わなければ、ダブルイレブン商戦のプロモーション枠がもらえないなど、大きな機会損失となっていた。そのため、どのブランドも赤字覚悟の低価格勝負を挑んできていたが、今後は独自の価格設定、戦い方ができる方向になるだろう。
現在も「天猫」の集客力が強い影響を持つため、そこから完全脱却することは難しいが、徐々にその色合いも弱まっていくのではと予想する。
もうひとつの変化は、SNS間のコンテンツ連携の障壁が取り払われつつあることだ。
これまで微信(WeChat)や淘宝直播(Taobao Live)、中国版TikTok抖音(Douyin)は、コンテンツを別のSNSで共有できないなど、情報拡散が難しく、互換性が乏しかった。しかしこれに対しても今年9月、ユーザーの利便性やプラットフォームのより公平な競争環境を整えるという目的から、行政指導が入った。
例えば、Taobao Liveのコンテンツはもともと、WeChat上に共有することはできなかったが、現在ではワンタップでシェアできるようになるなど、相互交流できる環境が整いつつある。
求められる自社経済圏の確立
より「自由度」が増すECやSNS環境。一見するとマーケティング活動を行う企業側にとってはメリットがもたらされたように思える。
しかし、これまでのように、それぞれのSNSごとに考えればよかった自社のマーケティングコンテンツは、今後はプラットフォームを超えて複雑に混ざり合うようになる。
消費者に流れ込む情報量が増えていくことで、いわゆるカスタマージャーニー(商品情報の獲得→他社製品との比較・分析→購買までの流れ)もより複雑化するのではないかと考えられる。ブランド側はその複雑化したジャーニーを把握し、上手に情報伝達の流れを作らなければならない。
そこで重要となるのは、「受け皿」だ。