製造コストは従来の3000分の1に
では、NUProteinが強みとする独自の「成長因子合成技術」とは何か。特徴を端的に表すと、「安い・安全・早い」の3つ。原料入手の容易さ、植物由来の安全性、リードタイムの短期化、である。
鍵となるのは成長因子の“原料”だ。同社の技術では、独自の塩基配列による遺伝子の設計図である「mRNA(メッセンジャーRNA)」と、製粉所の副産物から製造した「小麦胚芽抽出液」によって遺伝子を複製・増幅しタンパク質にすることができる。
前述の通り、これまでは動物細胞や大腸菌、酵母などが原料となっていた。これらは高コストで、例えば動物細胞の場合は、ハムスターやヒト胎児由来の細胞などの原料を使う場合は、1グラム3000万円と非常に高価。さらに、細胞を生きたまま培養するための管理コストもかかっていた。しかし、製粉所の副産物である小麦胚芽であれば、1グラム10万円と安く抑えることができる。
加えて、細胞活性を高める技術により、細胞増殖に必要な成長因子の量も、動物細胞を使って合成した場合の10分の1に。こうして、成長因子の製造コストを従来の3000分の1にまで下げることができた。単純計算で、これまでは4万5000円のコストがかかっていたビーフパティ1枚を15円で作れるようになった。
NUProtein独自の「成長因子合成技術」の鍵を握るのは「小麦」だ/Getty Images
安全性については、植物由来の原料なのでウイルスや大腸菌からの内毒素などの有害物質の混入リスクがない。そのため、高価なコストをかけて精製・純化を行う必要もなくなる。
最後に、成長因子製造にかかる時間について。既存の方法では、数週間〜1カ月以上かかっていたが、同社の場合はわずか1日で合成できるという。
同社は、小麦胚芽から成長因子を合成する技術に関する特許を、登録査定中のものを含めて4件保有している。こうして製造した成長因子を市場へ投入し、培養肉の流通への貢献を目指す。
培養肉の商品化はいつ?
では「培養肉」の商品化はどうか。
欧米では多くの企業がすでに参入し、開発競争は激化している。アジアで動きが早かったのが、シンガポールだ。衛生局が世界で初めて培養肉のチキンナゲットを認可し、レストランでの提供がはじまっている。
日本国内では、農林水産省がフードテック官民協議会を立ち上げて論を進めているが、世界的に見ると「5年くらい遅れている」(南)という。
培養肉という言葉からは、牛や豚、鶏肉などを想定するが、魚肉も製造可能だ。南は「実は牛肉よりも魚肉の方が作りやすい」のだという。
アメリカやドイツは、魚肉の開発・製造も進み、特に、本マグロなどの高級で希少価値の高い魚肉を培養肉で再現し、産業化しようとする動きが活発だ。すでにいくつかの企業は試食会も開いていて、実用化・商品化が目前に迫っている。