ビジネス

2021.10.28 10:00

宇宙という特殊環境だからこそ、新たな好奇心が芽を出していく


挑戦する心をいかに育むか、個性と文化の両面から考える


金子:挑戦するマインドを持った人材を発掘するためには、どうすればいいのかといつも考えています。

為末:陸上は個人競技なので本質的には他者と関係がありませんが、チームとしてトレーニングをしていると急に全体が伸びる場合があるんです。元々チームのエースだった選手が伸びても全体への影響は小さいですが、平均的だった選手が急成長するとチーム全体の空気がガラッと変わるんです。それは多分、「あいつがやれるなら」とみんなのマインドが変わるからだと思います。つまり、挑戦するマインドは、本人の資質と同時に、半分くらいの割合で空気と文化に宿るのではないかと。アメリカは国の構造として、挑戦を促すシステムができあがっているような気がするんです。

金子:確かに、アメリカはそうですね。

為末:挑戦することが特別でない空気を作るために必要な要素を考えると、まずは挑戦する姿勢への評価ですよね。もう一点は、評価軸の多様さだと思うんです。一人のパワフルなコーチが引っ張っていると、評価軸が集約されているので、選手が他の場所に行くと伸びなくなってしまう。評価軸が都度少しずつ変わりながら、でも個人がリスクをとってチャレンジすることが奨励されている時に、伸びていくと考えています。ただ、スポーツの場合は飛躍的な挑戦って、あまりないんです。挑戦というよりも直線上にある目標をどんどん高くしていくような感覚。それでも時に、クレイジーなアイデアを試したりする文化もあって、そこには組織の影響も大きい気はしています。

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2015年、為末さんはブータン五輪委員会のスポーツ親善大使に就任。2020年まで毎年現地を訪れ、アスリートに指導を行ってきた。photo by Kensaku Seki

金子:なるほど。やはり環境は大きく影響しますよね。

為末:以前にサンディエゴに住んでいたことがあるんですが、子どもの夢に「宇宙」があって、それは非常に重要だなと思いました。

金子:私も同感です。日本人宇宙飛行士と一緒にあちこち講演に回ったことがあるんですが、話をすると子どもたちの目が輝くんですよ。それは大事なモチベーションだと思いましたね。革新的衛星技術実証プログラムは、人材育成も大きな目的になっています。今度打ち上げる2号機には、高専(高等専門学校)が開発したキューブサットもあるんですよ。

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全国の高専10校が連携して開発した、木星電波観測技術実証衛星KOSEN-1(左)。KOSEN-1の開発の様子。写真提供 群馬工業高等専門学校(右)

為末:裾野の広がりは大事ですよね。陸上競技は、走投跳を行う競技なので、あらゆる競技の土台になり得るんですね。タイムも残るので他人との競争ではなく過去の自分との競争に意識を向けると、誰もが成功体験を得られます。子どもでも大人でも、「大体このくらい」という範囲が人間にはあるんです。手を伸ばせば、この辺のものまでは取れて、そこから先は届かないという感覚。走ることについても、おおよその速度を体感値として持っているんですが、それがちょっと伸びるという体験がすごく重要だと思っています。
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取材・文=村岡俊也

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