金子:本プログラムでは他にもスタートアップ企業にも参加いただいています。例えば、星をマッピングすることによって人工衛星自身の姿勢を計測するセンサー(スタートラッカー)を開発している「天の技」という企業があるんです。大きくて高性能で高価なスタートラッカーは多くあるんですが、「天の技」が作ろうとしているのは、もっと小さくて低価格のもの。そういったスタートアップ企業が、宇宙での実績を積むことによって、商品化の後押しになるんです。
為末:人工衛星からの観測に関してもお聞きしたいんですが、宇宙から地球を観測するのは、地球にいて地球を観測するのとでは、まったく違うデータが得られるんですか?
金子:まず人工衛星の特徴として、グローバルに地球観測ができます。それはやはり地球の軌道上をずっと回っていなければできません。以前に私が開発に関わった人工衛星「いぶき」は、二酸化炭素の濃度を測るための人工衛星なんですが、地球全体を見て、この地域が増えている、ということがわかるんです。グローバルな事象に対して人工衛星は非常に有効だと思いますね。
為末:以前に立花隆さんの『宇宙からの帰還』という本を読みましたが、そこには宇宙飛行士に共通する「地球観の変化」について書かれていたと記憶してます。大陸に国境が引かれているわけでもないし、二酸化炭素の影響も国単位で分かれているわけではない。宇宙からの目線では、地球が一体のものだと直感的に感じられるんでしょうね。
日常と密に繋がっていく、宇宙産業の未来について
金子:革新的衛星技術実証プログラムは、産業を後押しして日本としての競争力を高めることも目的の一つなんです。その結果、経済に貢献し、社会全体が恩恵を受けることになると考えています。
現在、為末さんが館長を務めている、新豊洲Brilliaランニングスタジアム。全天候型60メートル陸上トラックに、競技用義足開発ラボラトリー、ランニングステーションが併設されたバリアフリーのスポーツ施設。photo by Deportare Partners
為末:30年前くらいからIT企業という言葉が使われるようになりましたが、当時はIT企業とそうではない企業とがあったからだと思うんです。でも今ではITを使っていない企業なんてないですよね。宇宙に関しても同じことが言えて、将来的には宇宙と繋がっていない企業はなくなるかもしれませんね。人工衛星で地球を客観的に観測することによって、さまざまな分野において飛躍的な成長がありそう。僕らの世界でもビデオが出てきて、身体的動作のデータが取れるようになって、競技力が飛躍的に上がったんです。今では映像を使っていない競技はないくらい。
金子:おっしゃる通りだと思いますね。カーナビやスマートフォンの位置情報で使われているGPSを考えたらわかりやすいですが、元々はアメリカの衛星技術が一般化されて、かなり身近になっています。今後も宇宙と地上はどんどん融合していくと思います。最近では、米SpaceX社が、数万機の小さな衛星を打ち上げて、地域や時間で切れ間のない通信リンクを作ろうとしています。そういった活動の恩恵を地球上の人間が受けるようになるでしょうね。