「補償は求めない」と申し合わせ
これらの課題を解決するために、まず行ったのが、JAA会員企業間での議論。放送枠の拡大に向けて、字幕付きCMの放映時に起こりうる“悪目立ち”や“タイミングのズレによる字幕のかぶり”について、広告主企業の間で「問題にはしません。補償は求めません」と申し合わせをしたのだ。
日本民間放送連盟(民放連)の松本達夫(日本テレビ放送網 執行役員営業局長)は、「テレビ局側では、字幕付きCMが100%の状態で放送できるかどうか不安があったので、この申し合わせは転換点になりました。営業担当も、社会にとって必要なことは分かっていても、クライアントに提案しづらい現状があったので」と振り返る。
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広告制作の現場に対しては、2019年に日本広告業協会がパンフレットを制作したことで一歩前進した。字幕付きCM対応会社(ポストプロダクション)や制作プロセスをまとめたもので、沼澤は「これを元にクリエイティブディレクターやCMプランナーの方に『字幕はポスプロにお願いできるので大丈夫です』と伝えられるようになりました」と話す。
なお、電通では社内営業やCR向けに啓発セミナーを開催し、タイム枠のCMの場合は“字幕付き”を提案するようにと、話をしているという。
地方局では環境整備に課題も
こうした課題解決を経て、字幕付きCM普及推進協議会は2020年9月にロードマップを公表。テレビ局側の目標として「字幕付きCMが放送される放送枠を増やすこと」、広告主側の目標として「字幕付きCMを制作する広告主を増やすこと」の2つを掲げた。
ロードマップでは、「放送枠の拡大」を段階的に進められるように計画。字幕付きCMを全国で放送するためには、127局すべてで放送環境を整える必要があるが、地方局では環境整備に関する問題もあるため、このような方法をとった。
民放連の武田裕之は「各社は計画的に設備改修を行ってきましたが、実際に運用するとなると人手とノウハウが必要になります。まずは東阪名地区の民放テレビ15局が先行して実施し、確実に放送できる実績を積んで課題解決を図ることで、事業規模の小さな地方局の負担軽減を図ることにしました」と明かす。
広告主・広告会社に対しては、セミナーなどでの啓発活動を実施。さらに、2021年5月にはYouTubeチャンネルで解説動画『字幕付きCM5つのお話』を公開した。8月には全国の民放テレビ局で、字幕付きテレビCMの訴求CM『それいけ!字まくクン』を放送。
橋爪恒二郎 日本広告業協会 専務理事は「CMに字幕がないと困る方がいるという問題を多くの方に知っていただくために、メディアを使った啓発活動にも力を入れました」と話す。
解説動画『字幕付きCM5つのお話』第1話
ちなみにこの訴求CMは、地方局が「字幕付きCMが全国で安全に放送できるかどうか」を確認するための“素材”としての役割もある。「特に大きな課題は見つかっていませんが、実際に字幕付きCMを放送したことがない放送局もある。10月の全国拡大にむけ、テスト素材としても有効活用したい」と松本。