現状、字幕付きのテレビCMを放送できる枠は限られているため、CMの字幕付与割合はわずか1.02%(字幕付きCM普及推進協議会、2021年6月)にとどまっている。また、字幕付きCMを提供する広告主企業は、在京キー局5社のスポンサー企業延べ71社のみである。
主に字幕を必要としているのは、聴覚障害者や「難聴」を自覚する人。前者は全国に約34万1000人おり(2018年、厚労省)、後者は約3400万人とされる(2016年、総務省)。これらの人々にとっては、「テレビ番組は字幕付きで楽しむことができていたのに、CMに入った途端に理解できなくなってしまう」というのが日常だった。
この状況が今、少しずつ変わろうとしている。10月1日からようやく、“全国”で字幕付きのテレビCMが放送できるようになるのだ。
普及に向けて音頭を取っているのは、日本民間放送連盟・日本広告業協会・日本アドバタイザーズ協会で構成する字幕付きCM普及推進協議会。同協議会は総務省での検討会をきっかけに、2014年から普及推進活動を始めた。
協議会では、2020年9月に字幕付きCMの普及推進に向けた「ロードマップ」を作成し、大きく前進。2020年10月には関東エリア5局、2021年4月には関西、東海エリアを加えた15局で、字幕付きCMの受け入れをスタートした。この10月からはそれを、全国のネットワーク系列局と系列BS5局に拡大する。
ただし、広告主が個別の番組のスポンサーとして放送する「ネットタイム枠」「ローカルタイム枠」のCMのみでの受け入れとなる。
なぜ普及してこなかったのか?
そもそも、字幕付きCMはなぜ普及してこなかったのだろうか。JAAの小出誠(資生堂ジャパン メディア戦略部エグゼクティブマネージャー)は、「広告主企業」「テレビ局」「広告制作会社」それぞれに課題があったという。