市場でトップシェアを誇る企業の製品は、その企業の強みとされることが多いですが、スタートアップとの連携に向けてはもう一段深掘りが必要です。その製品がなぜ強いのか。競争優位は研究開発、製造、販売のバリューチェーン上のどの領域にあるのか。過去に形成した市場や顧客への浸透や、償却済みの資産に頼ってはいないか。一点集中型のスタートアップと対峙するためには自社の強みもより詳細に定義する必要があります。
自社の強みがより精緻に把握できれば、スタートアップとの共創の方向性も明らかになってきます。自社の強みとスタートアップの強みを並べて見て、そこにビジネスの繋がりがあるのか? 機能補完の関係は築けるのか? 特に一点集中のスタートアップが戦略的に担えない領域での共創の可能性などの点で検討を進めることで、アライアンス領域を具体的に定義できそれがスタートアップへの提案の切り口になります。もちろん先に述べた海外スタートアップの経営者も喜んで議論に時間を使うでしょう。
現地・現場との対話
ではどうしたら自社の強みを正確に定義し、戦略論に資する基礎へと昇華できるのでしょうか。その手がかりをつかむためにお勧めしたいのが、海外現地法人や子会社のマネジメント層やIR担当者との対話です。
現地法人は、地理的にも心理的にも本社から距離をおいているだけに、かえって自社の動向を客観的に捉えやすい立場にあるといえます。また、海外企業との提携交渉の経験もあり、より客観的に自社を見る目を持っています。彼の地で責任ある立場を務めている方々の認識はきっと傾聴に値するはずです。
また、IR担当者は株主や投資家、アナリストに対して、自社の状況を的確に伝える義務を負っており、彼らからの質問に対応するなかで自社の強みをより詳細に定義できていることが多いため、対話の相手としては非常に有望と言えるでしょう。
「敵を知りおのれを知れば百戦あやうからず」。デジタル時代のスタートアップとの共創戦略こそ、基本に立ち返り“敵とおのれ”を正しく理解することに大きなヒントがあると考えます。そしてその先に「日本の大企業との提携は時間がかかる」とぼやいていた海外スタートアップ経営者の鼻を明かし、ピカピカの共創事例が誕生することを強く期待しています。
【連載】今までにないアプローチでデジタルを理解する
#1:戦争論もドラッカーも古くない。デジタル時代こそ古典ビジネス論へ#2:何かご一緒できたら──は無用。日本企業はスタートアップを正しく評価せよ
中村健太郎◎アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 通信・メディア・ハイテク アジア太平洋・アフリカ・中東・トルコ地区統括 兼 航空飛行・防衛産業 日本統括 マネジング・ディレクター。フューチャーアーキテクト、ローランド・ベルガー、そしてボストンコンサルティンググループを経て、2016年にアクセンチュアへ参画。全社成長戦略、新規事業創造、デジタル、組織・人材戦略、M&A戦略、等の領域において、幅広い業界のコンサルティングに従事。