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デジタルをテコとした成長戦略

photo by iStock/Patrick Chu

「もはや時代は変わった。あらゆる局面でデジタルシフトが加速するいま、古くさい経営戦略論などに縛られるべきではない──」

われわれ戦略コンサルタントが、日本企業の経営者や事業執行者のみなさんと、今後の経営戦略や事業戦略について議論していると、時折こうした趣旨の発言に出くわすことがあります。

このような発言は、大方「過去のしがらみを断ち、来るべき未来に向かおう」というポジティブなメッセージです。肯定的な発言として受け止められることはあっても、議論の参加者から異論や反論が噴出するような場面に出くわしたことは、いまだかつてありません。

経営学の先駆者たちの理論は最新の経営課題の前では意味がないのか


長年にわたり企業の経営戦略の立案や遂行を支援してきた筆者は思うのです。“古きよき”経営戦略論が、現代のビジネス環境「にも」通用するという控え目な主張ではなく、むしろデジタル時代にこそ、その効用を理解し、積極的に活用すべきなのです。

筆者が経営戦略論に着目するのは、デジタルが浸透した現代のビジネス環境と古典的な経営戦略論は相性がよく、かつ分析結果がもたらす示唆の精度はますます上がると考えているからです。

実際にグローバルのテックジャイアントの経営幹部と議論すると、古典的な戦略論の用語が多く聞かれ、そのフレームを正しく用いて意思決定につなげており、まさに戦略論を彼らの経営戦略に深く活用されていることを強く感じます。

こうした事実が、企業の将来を担う日本のミドルクラスのマネジャーのみなさんの間で知られていないとしたら、将来に禍根を残す問題なのではないか。それがこの記事を執筆した最大の動機です。

なぜ古典的なセオリーとデジタルビジネスの相性が良いのか。それは経営戦略論の出自をみるとより明らかになります。

「戦略」は軍事からビジネスの世界へ


ドラッカーの似顔絵
ピーター・ドラッカーは現代のビジネス論をどう見るのだろうか。TPYXA_ILLUSTRATION / Shutterstock.com

そもそも経営戦略論は、いつ、どのような背景で生まれたのでしょうか。

諸説あるものの、その起源は18世紀にプロイセン王国(ドイツ帝国の元となった広大な軍事国家)の軍人だったカール・フォン・クラウゼヴィッツが著した『戦争論』に端を発するのが定説です。

その後、幾多の変遷を経て、現代に通じる経営戦略論の基礎が確立されたのは、1950年代から1960年代にかけての米国でした。第二次世界大戦後の飛躍的な経済成長を背景に、軍事領域で培われた「戦略」という概念を、企業経営に応用しようという動きが経営戦略論を生んだわけです。

ピーター・ドラッカーやアルフレッド・チャンドラー、マイケル・ポーター、ブルース・ヘンダーソンなど、当時気鋭の研究者たちが、戦略論を企業やビジネスの本質を読み解くために利用しようと試みた結果、個別具体的な経営課題の解決につながる、数々の戦略を編み出していきました。つまり、局面や環境に即した「勝利の方程式」が確立されていったわけです。

これらの思考の中で、彼らは企業が戦っているフィールドである資本市場に着目し、その構造を解明しようと試みました。そのときに参考にしたのが、経済学の「完全競争」という概念です。完全競争とは、最も進んだ資本市場をモデル化した概念で、以下の要件を充足すると定義されています。

文=中村健太郎(アクセンチュア)

アクセンチュアDX

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