これらの企業が生まれたのは偶然ではありません。スタートアップは投資家を味方につけ、時には利益よりも事業基盤の拡大を優先し集中してリソースを投下します。その投下額は、日本企業の投資額 (多くは一つの事業部が部門内で得た利益の中での投資額)よりはるかに大きくなることがあります。
自社のビジネスドメイン内にいるスタートアップの投資額や今後の投資の可能性を定量的に把握することはスタートアップを理解するだけでなく自社にとっての脅威を理解するうえで非常に有益です。
自社がビジネスを営む市場でスタートアップが自社よりはるかに大きな投資が行える可能性が見つかった場合、オープンイノベーションからスタートアップを脅威と見立てる競争戦略の構築に舵を切ることをおすすめします。スタートアップの投資額は過小評価されることが多く、また日本の大手企業側にもスタートアップを零細企業と見る傾向があることから、特に強調しておきたいポイントです。
(3)一つの事業・確実な成長
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スタートアップの投資家はVCなどのファンドが入っていることが多く、彼らはスタートアップの経営者に対して非常に高い水準の成長を課し、それをKPIへ設定します。そのため経営者は成長を追求する一方で成長につながらないことには経営リソースを投下しません。先日も海外の経営者が「日本は複数の事業を持っているスタートアップが多く、とても驚いた。我々にも手を出したい事業はあるが株主が許さない」と話しており、1つの事業に集中し成長を追求することを投資家から強く期待されていることをあらためて感じました。
そしてこのような成長に対する強い追求は、自社がバリューチェーンとビジネスインフラをどこまで担うかを明確に定義することの重要性を高めます。デジタルネイティブの経営者は他社との連携にかかる(取引)コストを非常に小さく見積もることも作用しています。
バリューチェーンを例にとると、販売や物流、ビジネスインフラでいえばクラウドや決済策を他社に任せる際、両社のビジネスプロセスがデジタル化されていれば連携はデータのやり取りのみで完結するため、低コストで連携が可能になります。それを前提とするとビジネスドメインだけでなくどのバリューチェーン、どのビジネスインフラを自社が担うかを定義し後は他社に任せることで自社のリソースをより狭い領域に集中させることが可能になります。スタートアップがエコシステムを大切にするのは、自社のリソースをより集中させるための重要な経営戦略であるためであり、この点に大企業とのアライアンスの切り口があると考えます。
国内大企業の課題:2
自社の強みの理解不足
日本企業とスタートアップの提携における2つ目の課題は、自社の本質的な強みに対する理解の不足です。これは簡単なようで非常に難しく、我々がプロジェクトを実施する際に最も時間をかける領域でもあります。