ちょい足しで本場の味になる調味料も。都内に増えた中華食材店の楽しみ方

中華食材アンテナショップ「本味主義」は横浜の関内にある


ところが、2000年代に入り、中華食材店が各地に増え、競合を強いられたことから「知音」グループは経営で苦戦を強いられ、撤退を余儀なくされたという。それを引き継いだのが、現在、友誼商店を運営している聖元だった。同社の中尾智一氏は次のように語る。

「これまでBtoBのビシネスしかしてこなかった弊社が小売りをすることに決めたのは、一般の消費者に商品を販売することで、購買データを収集し、市場動向を見極めることができると考えたからです。もともと弊社のメインターゲットは、『B』の先に存在する日本に住む中国人や台湾人だったのです。彼らを取り込みやすく、地の利のある池袋にあったことも理由です」

その後、同社では、数年前から「ターゲットはこのままでいいのだろうか? 日本の人たちも本場の中華食材を求めているのではないか」という議論が始まったという。中尾氏が続ける。

「ちょっと調味料を入れるだけで味の変化が起こる。八角を入れるだけで、麻婆豆腐も本格的になる。新たなターゲットとして日本の人たちにいかに商材を知ってもらうかに取り組むべきではないかと考えるようになりました」

池袋で中華フードコートを始めた同社は、大阪や立川、松戸、福岡にも展開し、現在さらなる出店地を計画中だ。

食材店にフードコートを併設したのは、「本場の中華が食べられることで、食材にも興味を持ってもらう」という相乗効果を狙ってのことだ。なかでも福岡店はビジネス街の中心にあるが、中華フードコートという珍しい業態ゆえに、日本人の客の取り込みも順調なようだ。

2019年12月、同社のグループ会社は横浜にアンテナショップ「本味主義」もオープンさせた。ターゲットは日本人の客だという。もともとネット通販から始めた事業だったが、実際に商品を手にとって見ることもできるリアル店舗だ。

関係者によると「人気商品は冷凍餃子や点心」だという。冷凍餃子はお湯で茹でるだけだし、台湾の手づくりネギパンケーキの「葱油餅(ツォンヨウビン)」やイモ団子(芋圓)のような人気スイーツも冷凍の点心で、こちらも手軽に食べられる。

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2020年4月、食品表示法が改正され、輸入食材の原料や生産国などを記した日本語表記シールの貼付が義務付けられている

同社では、東アジア各地に輸入先を拡大し、幅広い商品を随時投入、商品開発も行っている。最近、力を入れているのは香辛料で、火鍋のスープのもとや老干媽のような激辛調味料など、驚くほど種類の豊富な商品群である。

とはいえ、調味料だけを選んで購入してもらうのはまだ少しハードルが高いということで、たとえば台湾ジャージャー麺の本格調味料と食材をセットにするような商品化も進めている。

中華食材店は、コロナ禍で自由に海外に行けないいま、現地の気分を味わえる場所のひとつといえるかもしれない。これまで口にすることのなかった本場の中華食材が、こうして食材店を通して家庭の食卓にも少しずつ広がりつつある。

連載:東京ディープチャイナ
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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