「トルコの出資者イベントでは、トルコでは伝統的なヨーグルトに水と塩を混ぜた飲料、「アイラン」の販売機が作れないかといつも訊かれましたね。ビールに可能性があることがわからなかったのでしょう」とアルギュル氏。
アルプメン氏とともに、シリコンバレーを経由するのが唯一の道だと腹をくくり、アルギュル氏はスタートアップを支援する有名なアクセラレータに片っ端から接触を始める。カリフォルニア州マウンテンビューのシードアクセラレーター、「Yコンビネータ」に面談に呼ばれたこともあったが、次のラウンドには進めなかった。
「飲酒戒厳令」を解いた人の誕生日に契約成立
毎回、完璧なビールを作り出す。写真提供:パビーノ
努力が実ったのは、2016年5月19日。B2B事業の著名なアクセラレータである「アルケミスト」との契約を叶えたのだ。
アルギュル氏はこの日を忘れられないという。トルコ共和国の建国の父であるムスタファ・ケマル・アタテュルクの誕生日ということも記念すべきものとなった。偉業は数あれど、世俗国家の建設後に酒類の販売と飲酒の禁止を解いた人物の誕生日だからだ。
パビーノは、本社をサンフランシスコに移し、新しい経験を積む準備を始めた。
「サンフランシスコでは一からビジネスを学びました。電子メールの書き方からね」とアルギュル氏。そして1年ほど仲間とシリコンバレーに滞在してからトルコに帰国し、「タップトロニクス(Taptronics)」と名付けた製品のファーストバージョンを完成させた。
そしてBBCがパビーノに関する短いニュース映像を配信したことで、世界中の人々から関心が集まり始めた。アルギュル氏らはパビーノの製品のデモバージョンをどんどん送り、売上げも立ち始める。
スマートタップ。毎回同じようにビールをセットするよう、設定もできる。写真提供:パビーノ
「振り返ってみれば、あの頃の僕らはまさに『引っ張りだこ』だった。でも、僕らの事業の成功は、販売後の動きにかかっています。スマートタップを設置して、はい終わりということにはなりません。アフターサービスは販売と同じぐらい重要です」
アサヒビールとの交渉も
スマートタップはAIを搭載してはいるが、バーを「テクノロジー主導の場所」に変えてしまうことはない、とアルギュル氏は主張する。「われわれはテクノロジーを使って完璧なビールを実現する、ただそれだけです」。
パビーノがスマートタップを設置した最初の街は、生まれ故郷のイスタンブールだ。以降、イスラエルのテルアビブ、トルコのイズミル、キプロスのニコシア、メキシコのメキシコシティが続く。
パビーノ公式インスタグラムより
今年はチェコのビール「ピルスナーウルケル」を販売する、日本のアサヒグループホールディングスとの交渉を開始したものの、彼らからのラブコールは、新型コロナウイルスによるパンデミックによって中断中だ。
パビーノは、現在、イスタンブールのオペレーションセンターに14名の従業員を抱え、ドイツ、アメリカ、トルコなどから16件の出資を受け、スタートアップとしての年間収益は100万ドル(約1.1億円)という。
世界初、AIサーバー清浄機も
サーバーばかりでなく、世界初のAIサーバー清浄機「スマートクリーン(Smart Clean)」も発表、従来の400%の圧力で清浄することで特許も取得している。またそのプロダクト・デザインは2021年4月、ミラノで開催された「デザイン・アワード(A Design Award and Competition)」で受賞もした。
世界初のAIビールサーバー洗浄機「スマートクリーン」 写真提供:パビーノ
パビーノの目標は、極めて野心的だ。「パビーノはまさに生ビールの未来です。世界のスタンダードになりたいと思っています」とアルギュル氏は締めくくった。