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2021.09.09 07:00

トルコ発、越境するAIビールサーバー。理想の1杯は「スマートタップ」から


デジパブチェーンの発想は学生の頃に


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AIが自動で理想の一杯を作成。写真提供:パビーノ

ジャン・アルギュル氏のストーリーは、スタートアップ企業の創立者としてはとりわけユニークではないかもしれない。あまり気乗りせずに土木工学を学んでいるとき、最初のビジネスアイディアがひらめいたのだ。

「最終試験の勉強をしていた午前3時、ふと、お気に入りのバーに行ってやったほうがはかどるんじゃないかと思いついた。でも、テーブルに座れるまで待ちたくないし、ビールを手にするまでにはもっと時間がかかるだろう。だったらテーブルで自分がビールを注いだらいいんじゃないかと」

こうしてアイディアが生まれた。「デジパブ(Digi Pubs)」のチェーンの計画が現実実を帯びてきたため、アルギュル氏は、1年後、大学を卒業して事業に集中すると家族に宣言した。

「両親は、額に手を当て、病院に連れて行くべきかどうか訊いてきました。僕の頭がおかしくなったと思って」と振り返る。家族の心配はよそに、アルギュル氏は、新米のアントレプレナーながら大きな出資を得ることになる。有名シェフ、ヌスレット・ギョクチェ氏の著名なレストラン「ヌスレット」のチェーンにも出資している、トルコのドギュス・グループが投資してくれることになったのだ。

しかし突如、試練が彼を見舞う。

トルコ政府がアルコール販売を規制、「広告も禁止」


2013年、トルコ政府がアルコールの販売とその促進に関する新しい規制法を成立させた。これ以降、トルコではアルコールの広告は認められず、アルコール販売にも制限がかかり、夜10時から朝6時まで店舗でアルコールが購入できなくなった。

この新しい法律によって、トルコのアルコール市場は突然危機に陥った。もはや新規事業が参入する余地などなく、「デジパブ出店」の好機は失われてしまった。


ジャン・アルギュル氏 写真提供:パビーノ

当然、アルギュル氏は落胆を隠せなかった。成功が約束されていた事業を失ったが、だからといって勉強を続けたくもなかった。そこで、かつて情熱を傾けていたバスケットボールに戻り、イスタンブールのベシクタシュを本拠地とするバスケットボールチームで若手選手のコーチとなったのである。

「生ビール自動販売機」、そしてシリコンバレーへ


だが彼は、時が経つにつれて、また事業について考えるようになる。「完璧なビール」の夢を諦めたくなかったアルギュル氏は、2014年、パビーノを創業し、最初の製品である生ビールの自動販売機を市場に投入した。「ビールポイント(Beer Points[kk7] )」と呼ばれる生ビールの自動販売機を、まだアイディア段階のうちに、トルコ最大のビール醸造所「エフェス」に売ったのである。2カ月以内に最終製品を届けると約束したものの、彼には技術的な経験が十分になかった。ここで、現在パビーノの共同創立者兼技術統括者を務めるネチデット・アルプメン氏に出会い、状況は好転する。

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写真提供:パビーノ

生ビールの自動販売機は、ビーチバーやコンサート会場を中心に大成功を収めたが、これだけではふたりは満足できなかった。「ビールポイントは大きなイベントには適していますが、毎日通うバーなどの店でも良質のビールが常に飲めるようにしたかったんです」とアルギュル氏は語る。

しかし、出資者を見つけるのは簡単ではなくなっていた。
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翻訳=上林香織 編集=石井節子 写真提供=パビーノ

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