コロナ禍は「観光業」をどう変えたのか? サステナブルツーリズムの未来

白川郷(Daniel Viñé Garcia / Getty Images)


一例をあげると、まん延防止等重点措置が発出された岐阜県では、街中の飲食店だけでなく、観光旅館やホテルでの酒類の飲酒や販売も一律に中止となった。対して、岐阜県よりずっと感染者数が多い隣県の愛知県ではそこまでの規制がされておらず、地元の観光事業者から、なぜいままで感染者を出していない業界まで飲酒を禁止にするのかという大ブーイングが湧き起こった。

確かに、冷静に感染者情報を見つめると、岐阜県では旅館やホテルからの感染というのはほとんどなく、宿泊者名簿などもきちんと保管されているため、万が一の場合でも適切な対応ができるのは、街中の飲食店とは異なるのは明らかだった。

これらの意見を集約して、県のコロナ対策担当者に伝えると、「確かにそうだが、こういった対策を行う際は、迅速かつ徹底的に対処するために、一律というのが大切だ」という返答だった。曖昧さや解釈の隙間を残すと、結局、そこからほころびが出てくるというのだ。

それはそれで一理あるとも思いつつ、その後、なぜ観光事業者の人たちから、酒類の飲酒や販売の中止に対してあれほどの大ブーイングが起こったのかを考えてみた。そして、初めて旅館業やホテル業のなかでのそれらの売り上げが、相当に事業者の利益を支えていたということに気づいたのだった。

つまりは、旅館業やホテル業でのマネタイズの仕組みについて、いままでの日本の観光業界は、どのくらい考えてきたかということでもある。要するに、いままで旅館やホテルは「何で儲けてきたのか?」ということだ。

こういった観光におけるマーケティングについては、新たな視点が必要だと考えている。コロナ禍を体験したニューノーマルの新しい観光では、従来の考え方では太刀打ちできない。これからの観光業には「何で儲けるのか」、つまり「何に価値を持って対価を支払ってもらうべきなのか」という側面について、徹底的に見直すことが必要だろう。

実際、世界でサステナブルツーリズムの推進を行うために、世界持続可能観光協会(Global Sustainable Tourism Council)が規定している活動指針では、持続可能な観光地マネジメントとして、「地域のデスティネーション・マネジメント(観光地経営)戦略と実行計画が正しく策定されているか?」を重要視している。

さらには、観光に起因する環境、経済、社会、文化、人権に関する課題を定期的に調査し公表しているかどうかや、観光に影響を及ぼす気候変動による負の影響(観光資源の消失、観光客の減少等)を想定しているかなど、多方面から策定すべき膨大な評価基準が用意されている。

つまり、このようなことを策定しておかないと、国際基準に則った持続可能な観光地にはなれないということなのだ。これらは、コロナ禍により、明暗を分けた観光地や観光事業者の日頃の対応にも必要な視点であると思う。

オーバーツーリズムからコロナ禍対策へ


サステナブルツーリズムとは、国連世界観光機関(UNWTO)によれば、「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と定義されている。

要するに、未来につながる適切な観光需要を行うということなのだが、そこにもう少し私なりの解釈を加えるならば、「地域の自然環境や、文化、伝統などを守りながら、観光業を活性化させるなかで住民の暮らしを豊かにし、人々がそこで何世代も幸福を感じながら暮らし続けることができる地域振興や新産業化をめざすこと」だと考えている。
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文=古田菜穂子

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