そこで大切なのは、第一に、観光振興によって環境汚染や自然破壊などを引き起こす過剰な商業化を避けることだ。次に、特定の企業や個人や地域だけに富が集中するのではなく、多様な分野の人たちが互いに有機的に関連しながら役割を果たし合うことで、正当な収益を得ることだ。そして、観光地づくりを通してその地ならではの、ワインのテロワールにも似た「風土」性を活かして、地域社会の経済システムを整えることではないだろうか。
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ちなみに、日本においてのサステナブルツーリズムへの取り組みがはじめられた2018年から2019年は、政府の強力なインバウンド推進施策により、急速に外国人旅行者が増加。京都などをはじめとするオーバーツーリズムが問題視されはじめ、この時期、私が国際観光戦略アドバイザーを務めていた岐阜県でも、外国人延べ宿泊客数が47都道府県のなかで全国第12位という過去最高を記録した。
私がインバウンド戦略を担い始めた10年前から比較すると、約11倍にも増加し、過去のコラムでも何度か触れてきたが、飛騨高山での外国人観光客によるオーバーツーリズム問題も勃発しはじめていた頃だ。
また、日本各地の、特に地方で、オリンピック景気などを視野に入れた外国資本が旅館やホテルなどを次々と買収しはじめ、地域の景観や文化や伝統が商業的に大きく消費される危機にもさらされていた頃だ。
「このままでは日本の観光地が危ない」そんな声が全国各地で叫ばれるようになった最中の2020年1月、唐突に「危ない」の意味が、オーバーツーリズムの危機から新たな脅威へと180度転換したのが、新型コロナウイルス感染症による観光業への大打撃だった。
これにより観光の在り方が、それまでの大量消費型の観光に対する課題解決から、非常事態への危機管理体制の確保や、安心安全な「新しい観光」と言われる個人消費型の「質の観光」へと急速に舵を切ることとなっていった。同時に、皮肉にもコロナ禍は、先にも述べたようにSDGsの実現に向けた新たな暮らしへの転換にも結びつき、新しい観光施策づくりへの道標にもなっていった。
そしていま、コロナ禍はおさまらず、観光そのものの在り方もまた大きく問われるようになってきているなかで、サステナブルツーリズムの未来は、どこに向かうのか?
過去の私の取組事例を紹介しながら、その先を見つめていきたい。
連載:サステナブルツーリズムへの歩み 〜岐阜から発信する未来の観光
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