なぜ今、50代の人材が求められるのか。その背景についてエン エージェントミドルグループ マネージャーの井用崇之は、次のように解説する。
「ここ数年、国内の景気拡大の影響や少子高齢化の問題で、ミドル世代(35歳〜50代)の転職決定は増加傾向にあります。ただ、『50代は年齢だけで書類選考で落とす』という企業も少なくないのが現実でした。そんな流れの中でコロナ禍となり、即戦力が欲しい企業が『専門性やスキルが合致する方であれば、年齢問わず採用したい』と、50代にも選択肢を広げるケースが増えました」。
コロナ禍で事業環境が一変し、世の中の変化スピードに対応するために「社内で人を育てる余裕がなくなった」として即戦力採用を強化する企業や、社内外のデジタル化を推進するために高い専門性を持つ「DX人材」を採用する企業が増えているのだ。
即戦力という点では、IPOを見据えた経営管理体制構築のために、管理部門のスキルを持った50代人材を採用するスタートアップの例も目立つようになってきたという。
「50代とはいえ、人材として見たときに例えば49歳と51歳の差はほとんどありませんよね。見た目も中身も若々しい方はたくさんいらっしゃいます。書類の時点で年齢を気にされていた採用担当の方も、実際に就職希望者にお会いになると『ぜひ採用したい!』とご納得いただけることが多いですね」と井用。
50代が転職を決意する理由は?
井用によると、企業側のニーズだけでなく50代の転職希望者の数も増加傾向にある。2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行されたことも追い風になった。これによって、企業は65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業確保の努力義務も課されることとなった。
では、実際にどのような人が転職を考えているのだろうか。井用は「50代の転職は、自ら望んでキャリアアップのために転職を選択するというよりは、勤務先の業績や人間関係などの外的要因で何らか残れない事情があり、転職を選ぶケースがほとんどです」と明かす。
コロナ禍では、経済的にダメージを受けている業界で働く人が、企業の先行きを不安視して転職を選ぶケースも多い。社内の人間関係におけるストレスも、若手以上に強く転職に直結する。50代となると直属の上司が経営幹部になるため、馬が合わない場合に社内の部署移動などで解決できなくなるからだ。「今転職を考えていない50代も、いつその岐路に立たされるかは読めません。外的要因だからこそ、思わぬタイミングで転職せざるを得ない状況を秘めているのが50代です」。
さらに50代は、プライベートでも両親の介護や持病の治療などで時間が取られやすい年代でもある。コロナ禍でリモートワークを導入する企業が増えた今、より良いワークライフバランスを求めて働く環境を変えたいというニーズもある。