米調査会社ガートナーが発表する革新的技術のハイプ・サイクルによると、現在ブロックチェーンは幻滅期の谷底に位置し、2021年はようやく幻滅期を抜け出し始める年になると言われている。3〜4年前にメディアの寵児だったエンタープライズブロックチェーンの現場では今何が起こっているのだろうか。
シリコンバレーでエンタープライズブロックチェーンの専門家として知られているラディカ・イエンガー氏とジョーデン・ウッズ氏にインタビューを行った。
両氏は19年末に『Enterprise Blockchain Has Arrived: Real Deployments. Real Value.(エンタープライズブロックチェーンの到来)』(未邦訳)という著書を出版したが、その中で、筆者も金融分野のブロックチェーンの専門家としてインタビュー記事を載せてもらった経緯がある。年内に最新の情報を織り込んだ改訂版を出版予定とのことだ。
ジョーデン・ウッズ氏、ラディカ・イエンガー氏と筆者
吉川:ラディカとジョーデン、今日はインタビューに協力いただきありがとうございます。エンタープライズブロックチェーンの現状についてお話を聞きたいと思います。では早速ですが、エンタープライズブロックチェーン業界で今何が起こっているのかについて教えて下さい。
ジョーデン:幅広い業界でさまざまなステージでの導入が行われていますが、特に導入が活発な業界のトップ3は①金融サービス、②サプライチェーン・物流、③ヘルスケアです。また地域で言うと、アジアでの導入が最も活発で、次にヨーロッパ、そして北米が続きます。ガートナーによると、ブロックチェーンのPoC(概念実証)や実証試験が実用段階まで進む確率は世界平均で14%と言われていますが、アジアではそれが30%台となっており、量だけでなく質も高いことが分かります。
ラディカ:現在ブロックチェーン技術は、多くの大手企業の最高技術責任者にとってトップ5の優先課題となってきています。大企業が多くのリソースを割いてブロックチェーンプロジェクトに投資しており、企業が今後のブロックチェーンの発展をリードしていくと思います。我々が19年出版の著書で予測したことがまさに現実化しています。
ジョーデン:ユースケースの観点から見ると、大きく分けて二つに分けられます。一つは、ブロックチェーンによって既存のプロセスをより効率化、低コスト化するようなユースケースです。もう一つは、トークナイゼーション(物理的またはデジタルなアセットのトークン化)です。トークナイゼーションは効率化だけではなく、新たな収益機会を生み出す可能性を秘めています。