エンタープライズブロックチェーンは「幻滅期の底」を打ったか?

ジョーデン・ウッズ(左)とラディカ・イエンガー(右)


ラディカ:それに加えて、規制が追い風になる場合は成功確率が飛躍的に高まります。例えば、米国では医薬品サプライチェーンセキュリティ法の施行によって、23年までに製薬会社やベンダーが出荷元および出荷先について詳細な情報を追跡し保持することを義務付けられ、それによって製薬業界でブロックチェーンの価値が一層注目を集めることになりました。

FDA(米食品医薬品局)も製薬会社メルクや小売り大手ウォルマートを巻き込んだ薬品物流追跡のブロックチェーンの実証試験を行いました。また、11年に施行された米国食品安全強化法についてもサプライチェーン追跡性の厳格化が提案されていることから、食品の追跡性に関するブロックチェーンを活用したプロジェクトも活発になっています。やはり生き残ったプロジェクトは、先ほど述べた「ソーシャルグッド」の要素が強いものが多いですね。

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ラディカ・イエンガー氏

吉川:現在エンタープライズブロックチェーンで注目している分野は何ですか?

ジョーデン:金融サービスの分野でのさまざまな動きに注目しています。基本的なところでは、送金とトレーディング分野におけるブロックチェーンによる決済のリアルタイム化の動きです。決済が瞬時にかつ確実性をもって実行されることの経済全体への波及的なインパクトは計り知れないものがあります。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)についても、現在世界の86%の中央銀行が研究及び導入に向けた実証試験などをしていると言われていますが、特にCBDCが当該国の規制内容等を包含した「プログラマブル・ファイナンス(programmable finance)」を実現する可能性を秘めていることに注目しています。

CBDCは金融包摂という面でも非常に重要で、これまで取り残されていた人々が金融サービスにアクセスできるように取り込んでいくことが期待されています。また、今後はDeFi(分散型金融)のコンセプトが金融機関に採用されることによって新たなビジネスモデルが生まれてくると思います。

ラディカ:私はヘルスケアの分野に注目しています。ヘルスケア分野におけるブロックチェーンに必要な要素は、アイデンティティ、セキュリティ、そしてプライバシーの3点です。この中でも、アイデンティティは根幹となるもので、これがうまくブロックチェーンで管理できれば、「患者」中心のパーソナライズされたヘルスケアサービスの構築が可能になります。

この分野で先進的に取り組んでいる企業の一例として、アンセム(Anthem、米国の大手健康保険プロバイダー)のブロックチェーン導入の取り組みが参考になります。アンセムは4000万もの顧客を有していますが、ブロックチェーンを活用して、顧客が自らのアイデンティティを管理し、それに自身のヘルスデータを紐付け、特定の医療機関にデータを自ら共有できる仕組みを実現しています。まさに患者中心のサービスを体現しています。
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文=吉川絵美

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