金と銀の価格比は、ローマ帝国の最盛期には15対1だった。これは奇妙なことではない。銀の純度を高めるには、今よりずっと手間がかかったからだ。少なくとも当時の金は、川にある砂金を集めるか、高品質の鉱石を溶かすことで得られた。銀は産出量こそ多いものの、面倒な精錬が必要だった。
金と銀の価格比は、欧州が第一次世界大戦に突入する直前の1914年には20対1となっていた。現在は、おおむね90対1に落ち着いている。こうした変化の理由の一つは、銀が、ほかの多くの金属の精錬過程で得られるようになったことだ。
とはいえ、銀の生産量は金の10倍だ。したがって、生産量で考えれば、金価格は9倍高く評価されていることになる。簡単に説明できることではあるが、こうしたちょっとした情報はやはり興味深い。
金と銀の扱いの差を端的に表す逸話として、筆者のお気に入りを紹介しよう。第二次世界大戦中のこと。米国統治下だったフィリピンが日本に占領された時、米国は、軍艦に金を積んで撤退した。そして、銀貨はドラム缶に詰めてマニラ湾に沈めたのだ。
金銀のもう1つの違いとして、銀が通貨となり得るのは、その価値が日常的な取引に使い勝手がいいからだ。一方の金は、価値としても物理的にも「重い」ため、大規模取引以外には使いづらい。このため、概して金は金庫にしまい込まれ、銀は循環する。
にもかかわらず、投資家の頭の中で、金と銀はつながっている。金相場が動くと、銀相場もそれに従うものだと考えられている。しかし、実際はそう単純ではない。銀相場の変化は、連動するというよりは遅れて生じ、そして状況次第では暴騰する。銀を「最速の馬」にたとえる人もいるが、むしろ「気まぐれな馬」に近い。