そう語るのは、日本を代表するゲームクリエイターの田畑端氏だ。
ゲーム業界の名門スクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーXV』を世界的なヒットへと導いた立役者として知られる田畑氏は独立後、ゲームを活用することで、ビジネスにしづらいといわれる社会課題解決に挑んでいる。
その第一弾としてリリースされたのが、世界初のIPC(国際パラリンピック委員会)公式パラリンピックゲーム『The Pegasus Dream Tour(ザ ペガサス ドリーム ツアー)』だ。
このゲームでは、プレーを楽しむことがソーシャルグッドな活動につながる「サステナブルな世界観」を目指しているというが、果たしてそんなチャレンジは可能なのだろうか。活動を始めた理由や追い求める理想について、田畑氏に訊いた。
パラリンピックを新たにブランディングした『ザ ペガサス ドリームツアー』。ゲームを楽しむことで持続的に社会課題解決に貢献することができる仕組みが用意されている
きっかけは東日本大震災
JP GAMESの代表・田畑端氏は、ファイナルファンタジーシリーズの『ファイナルファンタジーXV』や『ファイナルファンタジー零式』といった大作を手掛けた凄腕のゲームクリエイターだ。ビデオゲーム業界のパイオニアとしてその名を世界へ轟かせ、『ファイナルファンタジーXV』もシリーズの売上水準を上回る世界的な成功へと導いた。
JP GAMESを設立したのは、その後の2019年2月のこと。次なるキャリアを拓く新たな挑戦を模索する中、次第に膨らんでいったのは「世の中をよくするゲームをつくりたい」という熱い想いだった。
「そもそものきっかけは、東日本大震災を経験したことにありました。地元の岩手県で知り合いや身近な人たちも被災して大変な思いをしていた中で感じたのは、ゲームのもつエンターテインメント性にはそんな人たちを元気づけたり、楽しませる力があるということ。もともと私は物事を進化させるのが好きな性分なので、このゲームのもつ可能性を進化させるとどんなことができるかと考えたときに、ゲームを活用して世の中をよくしていきたいというビジョンが見えてきたんです。
私が子どもの頃には、マンガやアニメを見ると科学が発達した未来が描かれていて、その到来をまだかまだかと待ちこがれていたものです。いまの世の中にもそんなワクワクする未来をつくって、それを後世に伝えていくことは、独立してでもやる価値があると思いましたね」
そのひとつとして田畑氏がたどり着いたのが「ゲームを通じた社会課題の解決」だ。仮想の世界で自分が主人公となって楽しむゲームには、勉強では学べない“体験”が蓄積されていく。この特性を上手く利用すれば、世の中をよくするために必要な教育の機会を提供でき、RPGのようにゲームのストーリーを追体験することで、社会課題も自分ゴトとして捉えてもらえるのではないか、と考えた。