株主と企業との関係についてまとめ、コーポレートガバナンス改革をけん引した14年「伊藤レポート」では、「ROE(自己資本利益率)8%以上」という基準を日本企業に浸透させた。今回のレポートでは、「人的資本(Human Capital)経営」の重要性、「経営戦略と人材戦略の連動」の必要性などを説いている。
従来との変化は、同レポートに掲載されている、6つの変革の方向性を見るとわかりやすい。
1. 人材マネジメントの目的は、従来の人的資源・管理から「人的資本・価値創造」へ。2. アクションは、人事から「人材戦略」へ。3. イニシアチブは、人事部から「経営陣、取締役会」へ。4. ベクトル・方向性は、内向きから「積極的対話」へ。5. 個と組織の関係は、相互依存から「個の自律・活性化」へ。6. 雇用コミュニティは、囲い込み型から「選び、選ばれる関係」へと移行するという。
コロナ禍で公表された「人材版伊藤レポート」の意義や本質は何か、を聞いた。
──「人材版伊藤レポート」では人的資本について議論した。
いま、資本市場や投資家は「人的資本」に関心をもっている。なぜなら、企業経営とは、持続的に企業価値を高めることだからだ。では、企業価値向上の決定打となっているのは何か。かつては工場やプラントといった有形資産だったが、いまは無形資産へと移行している。その無形資産の中核はというと「人」。企業の競争優位を支え、イノベーションを生み出すことを通じた成長を支えるのは「人」だ。
これまで日本企業でも、「人的資源(Human Resource)」という言葉はあったが、「人的資源管理」のように、いかに管理するか、という議論に終始してきた。ただ、人は、適切な機会を与え、いい働き方ができる環境を提供すれば、成長し、価値創造の担い手になる。つまり価値が上がる。
価値が上下するのならば、資源ではなく資本だ。であれば、マネジメントの方向性も、人の管理ではなく、人の成長を通じた「価値創造」へ変え、人に投じる資金は価値創造へ向けた「投資」と考えるべきだ。人を「資本」と位置付けて、いかに価値を高める組織を整備するか、という視点が大切だ。