広大な中国には、気候や産物、民族や文化などの違いによって多様な料理が存在する。一般的にはそれらをおおまかに分類したのが、北京(華北)、上海(華東)、広東(華南)、四川(西南)の四大料理だ。この分類は清朝初期にあたる17世紀に生まれたもので、それぞれの特徴は次のようなものだ。
華北料理は、黄河流域の小麦粉食文化圏ならではの、さまざまな麺や小吃(軽食)が味わえる。華東料理は、地産の食材を甘く薄味で煮込んだり蒸したりする優しい味が多い。華南料理は、海と山の新鮮な食材を生かし、あっさりとした味つけが特徴。点心や麺に特色がある。西南料理は、中華山椒の花椒(ホワジャオ)を使った麻辣(マーラー)料理が中心で、同じ麻婆豆腐でも日本のものとは辛さと痺れがまったく違う。
「攻略!東京ディープチャイナ~海外旅行に行かなくても食べられる本場の中華全154品」(産学社)20-21ページより
さらに、19世紀末から20世紀初頭にかけての清朝末期に、より細かい山東、江蘇、安徽、浙江、福建、広東、湖南、四川という八大料理の分類も生まれている。
これらに分類されているのは、中国でも広く知られる料理で、それぞれ味に特色がある。
四大料理や八大料理に含まれない地方の料理
いま東京で味わえる新感覚の中華料理のなかでも増えているのが、四大料理や八大料理の分類には含まれていない湖南や雲南、東北、山西料理を含む西北、新疆などのローカル色の強い料理を出す店だ。
湖南料理は、酸っぱく辛い「酸辣(スアンラー)」が味の特徴。強火の調理が好まれ、味つけは濃い。雲南料理は、最近注目の中国の少数民族のローカルフード。さわやかなスパイシーさが新鮮。
四谷三丁目にある雲南料理店「日興苑」の「過橋米線(かきょうべいせん)」
数の上で最も多い東北料理は、厳寒な気候から鍋や煮込みが主流。西北料理は、羊や粉モノ主体の料理や麺が豊富。シルクロードに位置する新疆料理は、ハラール食材とご当地スパイスを使ったイスラム料理である。
上野にある東北料理店「千里香」の「羊肉串(ヤンロウツァン)」
こうしたバラエティ豊かな中国の地方料理が東京に存在することは、10年前とは明らかに違う「東京ディープチャイナ」と呼ぶべき新しい食のシーンが現出していることを意味している。