そんな人工衛星で撮影した画像から、農地の状況を判別し、ビジネスに結びつけようとしているスタートアップがある。坪井俊輔(26歳)が代表をつとめる「サグリ」だ。
同社は、開発途上国で農業のデジタル化を進めようと、衛星からのデータを使い、土壌分析から耕作すべき作物の選択や、肥料を撒く量や場所の最適化などを行うことを目的に、当時横浜国立大学在学中だった坪井によって2018年に設立された。そんなサグリは、6月3日、約1億5500万円の資金調達をしたと発表した。
米ファンドからは「不採択」とされた事業
私がサグリの坪井に初めて会ったのは、同社が創業した2018年。米国シリコンバレーの投資ファンド「500 Startups」と神戸市が共催するスタートアップ育成事業に選ばれたときだった。
実は、このときの500 Startupsによる審査では、サグリは当初「不採択」とされていた。しかし、神戸市側の責任者であった私は、学生起業家がこの兵庫県に本社を置き、農業を変えたいという志でスタートしたビジネスに大きな将来性を感じていた。そのため、500 Startups側に強くアピールして、採択に同意してもらったことを、いまでもよく覚えている(採択は神戸市と同ファンドが共同で決定する規定)。
このとき、米国のファンドが坪井の会社を評価しなかった理由は明確だった。「営農管理アプリ」として、衛星データから農地の状況が判るというが、それで農家はどんなメリットを受けられるのか。料金を支払ってでもそのアプリを農家が使いたくなる理由が、当時は説明されていなかったからだ。
「衛星からの画像など見なくても、農家は自分の農地で何を栽培していて、順調に育てているのかわかるだろう」という500 Startups側の評価は確かに真っ当だった。
神戸市側のバックアップで自分の会社が育成事業に採択された坪井は、500 Startupsの指導を受け入れてビジネスプランを練り直すとともに、それを投資家へと説明するプレゼンの特訓に励むこととなった。
「500 KOBE起業家育成プログラム」でのプレゼンの様子
そして、見事なまでのプレゼン術を身に着けた彼は、育成事業の期間が終了した後も、現役大学生という将来性も武器にして、国内の数々のビジネスコンテストで優勝を果たしていった。