開発の頓挫からインドへと進出
ところが、巧みなプレゼン術でコンテストに優勝するだけでは、大きな投資につながらない。投資家の目は厳しかった。
そこで坪井は、農家ごとの多様なニーズに応えようと、アプリにさらに機能を付け加えていくことにしたのだが、この戦略が逆にプログラムに不具合を増やしてしまった。その結果、ついに開発そのものまでが頓挫することとなってしまった。
サグリを立ち上げた2018年の坪井俊輔
「悔しいけれど、この時は手詰まりを感じました。そこで、拠点をインドに移そうと考えたのです。僕たちのアプリを活用できるのは、アフリカやアジアの途上国ではないかと考えてのことでした。しかしこのインドを拠点にするアイデアは、会社の仲間から受け入れてもらえず、『サグリは坪井が自分の趣味でやっている会社だ』と思われてしまった。メンバーの大半が、このとき次々と離れていってしまったんです」
こう語る坪井だが、そんな辛い経験をしながらも乗り込んだインドでは、現地の銀行による農家への融資審査に注目した。
インドでは、農家への1件あたりの融資額は数万円と少額であり、銀行が融資の担保にするのは、農地そのものと農作物だ。担保を確認するために、銀行員は現地に赴き、農地や農作物を実際に見て判断しなければならない。
とはいえ、このやり方では大きな手間が掛かるため、銀行員の負担も大きい。さらに、他人の農地を自らの所有だと虚偽の申告をするケースもあり、それらの理由から金利が30%を超えることも少なくなかった。
そこで坪井は、サグリのアプリを通じて、融資の申込があった農地の面積と何が栽培されているのかを衛星からのデータで解析し、銀行に与信データとして提供することにしたのだ。坪井が語る。
「このデータがあれば、土地面積に作物の単価をかけるとどれくらい収入が得られるのかが容易に判るので、融資できる額の検討がつく。現地の銀行の方は、衛星写真から与信データを得る着眼点に驚いていました」
現地の銀行の評判も上々で、ビジネスとして本格化させようとした矢先、坪井は新型コロナウイルスのパンデミックに直面する。サグリのマイクロファイナンス融資受付アプリには、1日で約2000件の融資申込があり、約200件の融資を実行したが、インド政府が融資の返済凍結を発表したので、坪井の事業は中止に追い込まれた。
失意のなかで農林水産省から突然の連絡
そんななか、サグリのインドでの事業についての新聞記事を読んだ農林水産省の担当者が、突然、坪井に連絡してきたという。
坪井は、その担当者から、日本における農地の課題についての次のような話を聞いた。