そんな絵本への注目は、インターネット上の動画配信サービスでも別の形で高まっている。読み聞かせ動画が、コロナ禍以前とは比べものにならないほどアップロードされるようになったのだ。しかも、著者や出版社に許諾を得ていない違法作が非常に多い。
YouTube上で「絵本 読み聞かせ」と検索すると、かなりの数の動画がヒットする。今年になってアップロードされたものだけを抽出しても、スクロールの手は追いつかない。
有名タイトルも散見される。筆者が確認できたもので『おばけのバーバパパ』、『ノンタンいたいのとんでけ〜☆』、『パンダ銭湯』、『おはよう、はたらくくるまたち』などがあった(6月8日時点)。
これらの動画について絵本刊行元の各出版社に問い合わせたところ、無許諾配信との回答を得た。インターネット上での著作権を無視した違法読み聞かせ動画は、以前からたびたび見られたが、コロナ禍で見過ごせない量に激増した。
上記の各動画では、絵本だけが画面に映される。撮影者の手が表紙をめくり、中身を読み、裏表紙を閉じるところまで、1冊まるごと公開される。その様子をシンプルに録画したものもあれば、BGMをつけたり、鮮やかな朗読を披露する動画もある。
絵本も著作物であり、自作のものでない限り、作品の著作権者、すなわち作家や翻訳者らに許諾を取る必要がある。使用料の支払いが必要なこともある。
著作権法では、無許諾で使用できる例外も定めているが、それは「私的使用のための複製」や、教育機関や図書館でのケースなどに限られるため、動画配信サービス上での配信はこれにあたらない。公開された時点で利益の可能性が生じるので、絵本の読み聞かせ動画の違法配信者は、権利者の訴えによって損害賠償請求や刑事罰を受ける可能性が出てくる。
混在する、親たちの動画への視点
視聴者はどう受け止めているのだろうか。絵本の読み聞かせ動画を実際に視聴している、またはしたことのある子育て中の30代4名に話を聞くと、ほとんどの人がまず「違法かどうかがわかりにくい」と話す。
動画配信サービス上では、著作権の観点をクリアした動画とそうでないものとが、一緒くたに視聴者へ提案されがちだ。親たちは違法アップロード作を積極的に子に見せたくないと思いながらも、結果的にそうなってしまうことが多いようだった。
Sさん(4歳男児と1歳女児の母・神奈川県)は「見せてはいるが、両親とも本来は動画自体を与えたくない。違法アップロードを疑うものも多くて、子供がそれで楽しんでいるのが基本的には嫌」だと話す。「子どもの将来的な価値観に影響しそうで心配になる」そうだ。
なぜ、それでも絵本動画を子供に見せるのか。Sさんは「外出中、静かにさせないといけない時に仕方なく」と教えてくれた。Aさん(3歳男児の父・秋田県)も同意見だった。夫妻で自営業を営む彼は「妻と自分が家で別々に仕事をしていて、子供の相手をできない時にも見せている」そうだ。
両親とも会社勤めのRさん(5歳女児の母・東京都)は、コロナ禍の最初の緊急事態宣言時をこう振り返る。
「子供を保育園に預けられなくなって、家族3人でずっと家にいた。でも大人は仕事をしなくちゃいけない。おもちゃだと相手が必要だから(その必要のない動画を)与えました」
視聴者たちは、違法かそうでないかがわかりにくい現状がよくないと感じながらも、子供をあやすために仕方なく見せる場合があるようだ。