オンラインへの許諾は模索の途上
では、絵本刊行元はどう考え、対応しているのか。老舗の絵本出版社として「ころわん」シリーズなどを出版し続けてきたひさかたチャイルドの編集者・佐藤力さんはこう話す。
「絵本を不特定多数に永続的に開放しないというスタンスで、現在、業界各所で話し合いがもたれ、多くの絵本出版社が対策に踏み出し始めています。これから規制は厳しくなり、出版社から著作権について伝える動きも加速するでしょう」
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すでにアップロードされたものには、同社でも1件ずつ、削除申請をしているそうだ。佐藤さんによれば、コロナ禍での違法読み聞かせ動画問題はすでに第2の局面を迎えているという。
「2020年冒頭の、学校の休校措置がとられたあたりの時期には、『絵本を子どもたちに』という機運の高まりから、出版社が2カ月などの時限を設けて、既存の絵本作品の一部を無許諾で(読み聞かせ動画などに)使えるようにする動きがありました。そのことで絵本業界に、オンライン配信の波が否応なく一気に流れ込みました」
今はそこから少し経ち、当時設定された時限が守られているかという観点とともに、許諾を出すパターンに変化が生じてきているという。
絵本の著作者と出版社児童書部門の集まりである「児童書出版者・著作者懇談会」や、絵本出版社間での話し合いが進み、Zoomを利用した読み聞かせ会などの1回限りのオンライン使用なら許諾が出やすい方向になってきたそうだ。
他方、動画配信は事前に正式な申請があった場合も、著作権者の意向がない限り、同社では原則として許諾しない方向だという。録画されたものが不特定多数に公開され、繰り返し視聴されるのがその理由だ。設定によって、見る人を特定の範囲に限定できるものの、網目をかいくぐってのダウンロードや不正流出を完全に防ぐことは難しい。
国立国会図書館国際子ども図書館の調べによれば、絵本の新刊は年間約1500点刊行されている。それに、歴史ある絵本出版社ほど、長く愛される人気絵本の重版を重ねているが、それらの作品群のデジタル化されたものをほとんど見かけないのはなぜなのだろう。安心して楽しめるデジタル絵本コンテンツのそもそもの少なさが、違法動画への流れを作る要因の1つではないか。
佐藤さんは絵本がデジタル化されにくい原因について、こう話す。
「1つはマンパワーの問題です。弊社を始め、絵本の出版社は小規模のところが多く、さほど利益の見込めないデジタルコンテンツに人員を割く余裕がない。もう1つはコンテンツの質の問題で、私たちはこちらをより重視しています」